森直人が永遠の「映画小僧」大林宣彦監督を語る!

大林宣彦が描きだす唯一無二の世界観を体感しよう
大林宣彦が描きだす唯一無二の世界観を体感しよう

■どの作品からでも入り込める大林ワールド

2020年4月10日、惜しまれながら82年の生涯を閉じた大林宣彦監督。日本の映画界を代表する「巨匠」(マエストロ)として知られているが、ご本人は映画監督と呼ばれることすらあまり好きではなかったようで、特に晩年はご自身を「インディーズ映画作家」だと規定されていた。

「僕はこれまた、おかしな『アマチュア野郎』でありましたね(笑)」(『A MOVIE 大林宣彦、全自作を語る』立東舎刊より)。幼少期から活動写真機やセルロイド製のフィルムに親しみ、日本最初期の自主映画作家として活動を始め、CMディレクターのパイオニアから劇映画へと越境し、やがてデジタルシネマでさらなる自由奔放な表現を開拓した大林宣彦。そんな彼には枯れることのない若さと瑞々しさを湛えた、永遠の「映画小僧」との称号がふさわしい。

遺作となった『海辺の映画館―キネマの玉手箱』では、20年ぶりに"尾道"へ

(C)2020「海辺の映画館―キネマの玉手箱」製作委員会/PSC

もし、まだ大林宣彦ワールドに足を踏み入れたことのない人がいるならば、好きなところから入場していけばいい。映画の世界遺産とでも呼ぶべき圧巻の遺作となった『海辺の映画館―キネマの玉手箱』(2020年)。ポップでフレッシュなパワーに満ちた劇場映画デビュー作『HOUSE ハウス』(1977年)。どの作品からでもOKだ。生涯にわたって初期衝動のエネルギーを失わず、ピュアな遊び心でスクリーンというキャンバスを埋めていく――史上最強の「映画小僧」は、いつだって無類に楽しく優しい映画体験を約束してくれる。

その「楽しさ」とは裏腹に、大林がこだわり続けたものに「戦争」というテーマがある。1938年生まれ、広島県出身の彼は、自身のアイデンティティを「敗戦少年」と定義していた。

恋に友情に青春を謳歌する少年の姿を描く『花筐/HANAGATAMI』

(C)唐津映画製作委員会/PSC 2017

戦時中の瀬戸内を舞台にした傑作『野ゆき山ゆき海べゆき』(1986年)などでは原爆投下のシーンも描いている。また2011年の東日本大震災――「3.11」の衝撃に触発された『この空の花―長岡花火物語』(2012年)では、ピカソがスペイン内戦中に描いた絵画に倣って「シネマ・ゲルニカ」を標榜。続けて『野のなななのか』(14)、『花筐/HANAGATAMI』(2017年)と「戦争三部作」を撮る。そして戊辰戦争から桜隊の悲劇まで、戦争の歴史をタイムリープする『海辺の映画館―キネマの玉手箱』へと至る。これらはまさしく今の時代への危機感を背に、渾身の力で描きあげた巨大な反戦壁画のようだ。

戦争という残酷な破壊の脅威に対して、大林監督が掲げたのは個人の想像力の可能性だ。すなわち「夢」の力。商業映画のシステムの中でも、8ミリカメラを手にしていた頃と変わらぬ個人の自由なイマジネーションの翼を広げ続けた。「A MOVIE」とは、大林映画の冒頭に毎回登場するタイトルフレーズ。自分のフィルムはすべて個人映画であり、普遍映画である、という監督の想いが込められている。大林映画とは、個人の「夢」の力を皆で共有できる素晴らしき「僕」や「私」たちの世界なのだ。

■色褪せぬ青春期を描き愛される「尾道三部作」

「尾道三部作」のひとつ『転校生』。男女の入れ替わりの元祖とも言える

(C)1982日本テレビ・東宝

そして最も愛される大林クラシック「尾道三部作」を改めて観てみよう。思春期真っ盛りの未分化な性的妄想に輪郭を与えてくれる『転校生』(1982年)――この名作の男女の入れ替わりが、新海誠監督のアニメーション『君の名は。』(2016年)の最大のヒントになったとも言われる。原田知世主演、ラベンダーの香り漂うタイムリープものの金字塔『時をかける少女』(1983年)。ショパンの「別れの曲」が美しく使われ、哀切な恋の詩情が胸を締め付ける『さびしんぼう』(1985年)。どれもまったく色あせぬ、珠玉のイノセンスのきらめきに満ちている。

少女時代の母親と少年との交流を描いたファンタジー『さびしんぼう』

(C) 1985 東宝

片岡義男原作の『彼のオートバイ、彼女の島』(1986年)、ベンチャーズ世代のバンド少年映画『青春デンデケデケデケ』(1992年)など、快活で能動的な「生」の魅力にあふれる大林映画だが、実はどの作品にも「死」の匂いや回路が組み込まれている。生死は究極的な真実の表裏一体だ。ゆえに死に恐れず向き合うことが、健やかに生きていくためのヒントにもなる。芳醇なエロスとタナトスも大林映画のキーポイントだ。

直木賞に選ばれた芦原すなおの青春小説を映画化した『青春デンデケデケデケ』

(C) ピーエスシー

特にコロナ禍の今、先の見えない世の中だからこそ、「夢」の力を確かめるために大林ワールドの扉を開けよう。いつも笑顔の映画小僧がそこに待っていてくれる。大林監督が優しい声で語りかけてくるメッセージをキャッチするために、目眩く映像のマジックに身を任せながら、そっと耳を澄ませたい。

文=森直人

森直人●1971年生まれ。映画評論家、ライター。著書に「シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~」(フィルムアート社)、編著に「21世紀/シネマX」「シネ・アーティスト伝説」「日本発 映画ゼロ世代」(フィルムアート社)、「ゼロ年代+の映画」(河出書房新社)など。YouTubeチャンネル「活弁シネマ倶楽部」でMC担当中。映画の好みは雑食性ですが、日本映画は特に青春映画が面白いと思っています。

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放送情報

野ゆき山ゆき海べゆき(モノクロ版)
放送日時:2021年4月10日(土)17:30~
転校生
放送日時:2021年4月10日(土)20:00~
青春デンデケデケデケ
放送日時:2021年4月11日(日)0:30~
さびしんぼう
放送日時:2021年4月15日(木)8:30~

彼のオートバイ 彼女の島
放送日時:2021年4月19日(月)1:15~

※「青春デンデケデケデケ」を除く4作品は、本編の前後に大林宣彦監督の作品解説付き
チャンネル:衛星劇場


異人たちとの夏

放送日時:2021年4月11日(日)15:15~
漂流教室
放送日時:2021年4月11日(日)17:15~
転校生
放送日時:2021年4月11日(日)19:00~
海辺の映画館-キネマの玉手箱
放送日時:2021年4月11日(日)21:00~
この空の花 長岡花火物語
放送日時:2021年4月12日(月)0:15~
野のなななのか
放送日時:2021年4月12日(月)3:00~
その日のまえに
放送日時:2021年4月12日(月)6:00~
チャンネル:WOWOWシネマ


大林宣彦映画祭! ~花筐花言葉 今伝え遺したいこと。 大林宣彦×岩井俊二×常盤貴子特別鼎談~

放送日時:2021年4月10日(土)7:00~
ふたり

放送日時:2021年4月29日(木)12:00~
恋人よ、われに帰れ(主演・沢田研二)
放送日時:2021年4月29日(木)14:40~
花筐/HANAGATAMI<PG-12>
放送日時:2021年4月29日(木)16:20~
転校生
放送日時:2021年4月29日(木)20:20~
海辺の映画館―キネマの玉手箱<PG-12>
放送日時:2021年4月29日(木)22:20~
HOUSE ハウス
放送日時:2021年4月30日(金)1:30~
チャンネル:日本映画専門チャンネル


※放送スケジュールは変更になる場合があります

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