高橋広樹が「こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎」を通して伝えたい思い「今よりも歌舞伎に触れてくださる方が増えたら」

高橋広樹
高橋広樹

2022年にスタートした現代語を交えて送るオリジナル歌舞伎朗読劇「こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎」の第2弾となる「こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎 ~雪の夜道篇~」が10月7日から9日まで東京・草月ホールにて上演された。

同公演では古典歌舞伎の代表的な演目から忠義を描く時代物屈指の名作「仮名手本忠臣蔵」と流麗な台詞の美しさが光る色模様「雪暮夜入谷畦道」を上演。7日には内田夕夜、斎賀みつき、高橋広樹、羽多野渉、8日には置鮎龍太郎、甲斐田ゆき、諏訪部順一、福山潤、9日には立花慎之介、朴璐美、平田広明、吉野裕行が出演し、これまでになかった新たな形で歌舞伎の魅力を届けた。

今回は「テニスの王子様」の菊丸英二役や「ヘタリア」の日本役などのキャラクターを演じている声優の高橋にインタビューを行い、本作に出演が決まった時の気持ちや歌舞伎の魅力、本作を通して伝えたいことについて話を聞いた。

――「こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎 ~雪の夜道篇~」に出演が決まった時の気持ちをお聞かせください

「声優が歌舞伎を朗読でやるという企画をいただいた時にまず感じたのはすごく挑戦的だなということでした。ビジュアルと空間を含めた総合芸術としての歌舞伎を声だけで演じるというのは少し不安もありましたが、以前にご一緒させていただいた岡本貴也さんが演出を務めているということで、すぐにいいものができるだろうなと確信しました」

――初めて歌舞伎を朗読してみて大変だったことはありましたか?

「歌舞伎特有の言葉遣いや現代の人間との感じ方の違いがあるので、歌舞伎のモノマネではなく、しっかりとその時代に生きている登場人物をリアリティを持って演じることが難しかったです。これまでに感じてきたその時代ならではの風情はしっかり踏まえつつ、登場人物たちが置かれている立場や行動のあり方というのは、慎重に考えて演じ分けなければいけないなと思いました」

――今回の演目「雪暮夜入谷畦道」では主人公の直次郎を演じられますね。

「私がメインの役をやらせていただく『雪暮夜入谷畦道』は率直に難しい話だなと思いましたね。大転換があるような壮大なストーリーではなく、ストーリーの中の1場面を切り抜いている作品でもあるのですが、だからこそしっかりと演じないと面白くならないんだろうなというのは感じていて。例えば、主人公の直次郎は身を潜めて生活しているのですが、恋する花魁・三千歳に一目でも会いに行こうとするんです。でも、最終的には関係を断ち切って、捕手に取り込まれるんですよ。特に直次郎の心情の機微が感じられるお話なので、エンタメにするのが難しいなとも思ったんです。だからこそ、今回は細かな機敏も逃さずにやらなければ見ている方にも伝わらない。そこは意識して演じましたね」

――直次郎についてどのような印象を持たれましたか?

「基本悪者なのですが、恋する女性には一途なんです。しかもまだ若造なんですよ。当時の若者のリアルが表現されているなと感じたので、内面的にはすごく演じがいがありました。彼の波乱に満ちた人生における荒っぽさや情熱的で粗野な一面が魅力的なキャラクターだなと思ったので楽しんで演じさせていただきました」

――共演者の4人とは演技に関してすり合わせなどはされたのでしょうか?

「時間も限られていたので特に言葉を交わしてすり合わせるということはなかったです。僕はただ演出家の岡本さんが求めるものにしっかりと応えていくことを稽古で意識しました。そういう意味では演じながら岡本さんと感覚を合わせていくというスタイルに近いですね。サッカー日本代表で例えると、ヨーロッパ組って日本に帰国後数日しか全体練習ができずに公式戦に出場するというケースが多いじゃないですか。それでも彼らは連携をちゃんと構築しなければいけない。僕たちもそんな感じで稽古をしていました(笑)」

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――アニメや吹き替えと違う朗読の良さってどういうところにあるのでしょうか?

「アフレコの場合は完全に絵に合わせていく作業で、最初から自由に0から作り上げていくものではないので、そもそも朗読とはスタートから違うんですよ。それに対して朗読は相手との駆け引きや相手との距離感に加えて、ライブでお芝居をお届けしなければいけないので、その場で起こったことへの肉体の反射や感情の変化も当然演技には影響してくるんです。それを悪影響に捉えるのではなく、それも利用してその空間でしかできない演目を上演できるという魅力が朗読にはあるんじゃないかなと思います。僕はお客様が目の前にいた方が燃えるタイプの人間なので朗読劇はやっていて楽しいですし、やりがいを感じています」

――朗読劇はお客さんの反応がダイレクトに返ってきますしね

「笑ってほしいところで笑いが起きたらやっぱり気持ちいいんですよ。だからといって演技の最中なので稽古でやっていないようなことで笑いを取るわけではないのですが(笑)。お客さんが笑ってくれるということは、僕たちのお話に集中している、こちらと同化しているという証でもあるので、僕たちは今、声を使ってお客さんと1つの作品を作っているんだという気持ちになれるんです」

――今回「こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎 ~雪の夜道篇~」を経験して、改めて日本の伝統芸能を再確認した部分はありますか?

「様式と感覚のせめぎ合いがすごいなと思いました。やっぱり歌舞伎って、ある程度見たことがある人であれば、真似したりしてみたくなるじゃないですか。例えば、決めゼリフだったりとかセリフ回しであったりとかちょっとした所作であったりとか。その様式には1つ1つ型があって、それぞれに意味があるものではあるのですが、その型だけにとらわれずに人間の中身が伴わないとその型が活きないと思うんです。改めて歌舞伎はものすごく洗練されていて、緻密に計算された深い芸能なんだなと実感しました。我々は歌舞伎の型というものは持っていないからこそ、真摯に向き合わなければ失礼に当たるなと思ったので気を引き締めて演じようと思っています」

――高橋さんのような方がこうして歌舞伎を違う視点から発信していくことによって、いろんな世代に歌舞伎の魅力が伝わるんじゃないかなと思います。本公演を通してどのようなことを伝えていきたいですか?

「もちろんこの公演をきっかけに歌舞伎というものに対する興味や関心が大きくなって、今よりも歌舞伎に触れてくださる方が増えたら嬉しいです。それと同時に歌舞伎もお芝居である以上、登場人物たちの心情や彼らが置かれた背景を味わうドラマであるんだということを再認識してほしいなと思います。まだ歌舞伎って言葉だけが1人歩きしているような気がしていて。そうではなくて歌舞伎はストーリーを楽しむ演劇であり、人間関係の機微を味わいに行く世界なんだなということを知ってもらえたら、より一層、歌舞伎に対する興味が湧くだろうし、エンタメとして楽しんでいただけるんじゃないかなと思います」

――歌舞伎の魅力をもっと知ってほしいという思いがあるんですね

「僕も歌舞伎はそこまで詳しくはないのですが、行くと必ず心が洗われたような気持ちになれるんです。私なんかが言うのはおこがましいですけど、歌舞伎に対して敷居を感じているのであれば、そんなものは実はないんだよということを伝えたい。普通の演劇を見に行くのと変わらないので。『こえかぶ』を通してそこの思いを知っていただけたら幸いです」

――それこそ声優さんから歌舞伎が好きになりましたでもいいわけですしね

「それでいいと思います。最初はテレビで観たあの歌舞伎俳優はどんなお芝居をするんだろうという興味でもいいと思います。僕なんか歌舞伎を観に行けば必ずイヤホンガイドを借りていますよ(笑)。「にわかものめ!」とかって思われそうな気がしますけど、本当に便利ですし何より歌舞伎に対して理解が深まるんです。だって昔の言葉を知らないのが当たり前なんですから。歌舞伎は昔、音の反響を考えた建物の作りではない場所で演じていたので、大きな声を出さなければ後ろの席まで届かなかった。そういう中で今の発声法が確立されてきたという歴史があるので、聞き慣れない言葉があるのは当然なんですよ。なので、初めて歌舞伎を観る方はイヤホンガイドをおすすめしておきます!」

取材・文=川崎龍也

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こえかぶ 朗読で楽しむ歌舞伎 ~雪の夜道篇~

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