伊勢屋の御曹司・総太郎を演じる朝美絢も、どうしようもない放蕩息子役で新境地を見せる。「何せこの顔、この器量。モテて、モテて、しょうがない」と自分で言ってしまう男だが、これを朝美が歌うと妙に説得力がある。そんな彼も、夢介との関わりや、彼に想いを寄せるお松(野々花ひまり)の健気さによって生まれ変わっていく。
この公演より宙組から組み替えしてきた和希そらが演じるのは、スリの三太。背伸びしているが大人になり切れていない少年の、生意気の奥に潜む優しさの表現に男役の熟練を感じさせる。
食えない悪党として夢介らに立ちはだかる、一つ目の御前(真那春人)一味も、タカラヅカでは愛嬌たっぷり。手下の1人である悪七には原作にはないエピソードが加味されており、この公演で退団した綾凰華が人情味たっぷりに演じてみせる。そして、原作には登場しないキャラクターである金さん(縣千)の活躍ぶりも、見てのお楽しみだ。
いっぽう、娘手品師の春駒太夫(愛すみれ)、芸者の浜次(妃華ゆきの)、小唄の師匠・お滝(希良々うみ)など、夢介の周りをイイ女たちが取り巻く。芸達者な娘役がそろう雪組ならではの見せ場だ。
軍服でも黒燕尾でもない、三度笠に股旅姿の男役たちが勢ぞろいする幕開きからして、タカラヅカの広い守備範囲を思い知らされる。随所に織り込まれる踊りも、着物の着こなしや所作もこなれており、まさに「日本物の雪組」本領発揮の作品である。
文=中本千晶
放送情報
夢介千両みやげ('22年雪組・東京・千秋楽)
放送日時:2023年5月7日(日)21:00~
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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