野口五郎の主演映画「季節風」で見る「アイドル歌手」という存在

「季節風」で共演した野口五郎、宇佐美恵子
「季節風」で共演した野口五郎、宇佐美恵子

(C)1977 松竹株式会社

人気絶頂の中、演技にも挑戦し、同作は初主演画「再会」(1975年)に続く主演作の第2弾。歌が好きな若者が将来に迷いながら上京し、再会した知人男性とその妹、偶然知り合った女性モデルとの心の交流を描いたもの。浪人生の高村慎次(野口)は、ある日進路を巡って父親代わりの腹違いの兄とケンカし、売り言葉に買い言葉で家出する。その直後、CM撮影を終えて帰京するモデル・白川圭子(宇佐美恵子)と出会い、彼女と共に東京に行き、旧知の山本健(田中邦衛)を頼ることに。健の妹・美紀(大竹しのぶ)とも再会した慎次は、健の部屋で居候をさせてもらいながら、スナックでボーイとして働き始める。そんなある日、閉店後に弾き語りをする慎次の歌をマスターが気に入り、翌日から客前で歌うことに。数日後、慎次は店にやって来た圭子に「一曲作ってほしい」と頼まれる。

野口は進路に悩みながら、社会の厳しさや働くことの大変さ、親しい人の死など、さまざまな経験を経て大人になっていく青年を瑞々しく表現。甘いルックスに加え、若さゆえの世間知らずな感じや子供っぽさを存分に出しつつ、大都会東京で懸命に生きていく姿を披露する野口に、どれほどの若い女性たちが心を掴まれたことだろう。演技においても、思春期のもやもやした心情や厳しい環境で生きていく中で成長する心を繊細に描いており、その多才さに驚かされる。中でも、本業である歌を歌うシーンは絶品。圧倒的な歌唱力が役の心情や場面とリンクし、筆舌に尽くしがたいシーンとなっている。ルックスはいい、演技もできる、しかし基盤は歌手。多くの才能を有しながらも、歌ってこそその真価が表れるのだ。

若手俳優の主演作としても全く見劣りしないクオリティの高い作品であるが、そんな中でも野口の「アイドル歌手」たる所以を、ぜひ堪能してほしい。

文=原田健

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放送情報

季節風
放送日時:6月3日(土)8:45~ほか
放送チャンネル:衛星劇場
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

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