杉野は、見た目も良く、頭が切れて、面倒見のいい栄二を演じながら、無実の罪を着せられたことに対する絶望や憎悪があふれてしまう心の揺らぎ、人足寄場でさまざまな人間と会う中での心情の変化、意外と頭に血が上りやすい短気なところなど、心の機微をしっかりと捉えて降り掛かる困難に立ち向かっていく青年の強い部分と弱い部分を瑞々しく表している。
一方、森永はぐずでのろまで要領の悪いさぶを "0.8倍速"を合言葉にしたようなゆっくりとした演技で表現。口調や動き、会話での相手への返答のスピードなど、ゆっくりだがゆっくり過ぎないスピード感を軸に演じつつも、いつまでも真っ直ぐでピュアな部分や栄二を慕う深い思い、見た目とは裏腹な芯の強さ、困った人を放っておけないお人好しなところなど、さぶのギャップのある部分も丁寧に作り上げている。
"人間"を描いた作品のため、俳優としては、どこまで役を掘り下げて、どれくらい深く役作りができるかがポイントとなるドラマなのだが、2人は見事に演じ切っており、繰り返しさまざまな角度から観ても、観るたびに新しい顔を発見できるほどにしっかりとした"人間"として描かれている。
そんな中で、最も素晴らしいのが2人の掛け合いのシーンだ。さまざまなシチュエーションで掛け合いのシーンがあるのだが、どれだけ環境の変化による立場の変化があっても絶対に変わらない距離感を保つことで"真の友情の不変さ"を紡いでいる。それと同時に、それぞれが真逆のキャラクターを演じることで互いのキャラクター性を際立たせながら、自分の役も輝かせるという、この2人だからこそできた"ミックスアップ"状態になっている。
それぞれ違った芝居のベクトルを目指しながらも、互いの演技をリスペクトしながら「ここまでのレベルの芝居を見せつけてくるなら、こちらも」という俳優としての負けん気がどのシーンからもビンビンに感じられ、互いの演技が素晴らしいものになっていくのが観ていて分かるのだ。
"山本周五郎の名作"と"制作陣の深いこだわり"という背景があってこそだが、2人が「次世代を担う」と言われるゆえんを、彼らの素晴らしい演技から目の当たりにしてほしい。
文=原田健
放送情報
山本周五郎ドラマ さぶ
放送日時:2023年7月16日(日) 19:00~ほか
放送チャンネル:時代劇専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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