この映画では、さほど事件は起きない。序盤では健一が娘を保育園へ送り、仕事に向かい、早上がりしてお迎えへ行き...という日常がただ繰り返される。しかしその普通に見える日々の中にも、健一には常にどこか言いようのない悲壮感のようなものが見え隠れする。死の悲しみに飲まれてしまうのでもなく、しかし吹っ切れているわけでもない。心の奥底には、常に亡くした妻の面影がある。そうやって、健一の人生が失ったものを抱えながら生きていくという作品全体のテーマへとつながっていく。
大切なものを失ったのは健一だけではない。娘の美紀は母を亡くし、健一の義理の父母は娘に先立たれた。そして健一の義理の兄夫婦や、子育ての中で健一が出会う人々も、皆が大切な誰かを失った悲しみの中で"普通"の毎日を生きている。そんな彼らが懸命に生きる10年という歳月を2時間の映画を通じて見終わった後には、原作者の重松清が語るように「まん丸な満月ではない家族たち」が重なりあうことでもたらされる静かな感動に包まれることだろう。
文=本永真里奈
放送情報
ステップ
放送日時:7月28日(金) 21:00~
放送チャンネル:WOWOWシネマ
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