過熱する「お受験戦争」に翻弄されながら、一度入ったら抜け出せない「ママ友社会」の闘いに突然巻き込まれた平凡な主婦が、暗くて長いトンネルを抜け出し、光を見出すまでの奮戦記でもある本作。杏が演じる主人公の侑子は、妻として母として、そしてキャリアウーマンとして忙しい日々を過ごしていたものの、引っ越し先で息子が新たな幼稚園に通うようになったことを機に、濃密な「ママ友の世界」に引きずり込まれてしまう。
「○○君ママ」「○○ちゃんママ」と、子どもの母親としてしか認識されず、子どもの優秀さや夫の勤務先などでマウント合戦を繰り広げる苛烈な世界でも、侑子はしっかりとした自分軸を持ち、華やかなママ友たちにも染まらない。そんな侑子を杏は、カジュアルなファッションとシンプルなヘアアレンジで表現。他のママたちがバッチリメイクとキメキメのヘアスタイリングに加え、華やかなワンピースやパンプスで通園するなかでも、常に控えめメイクで、パーカーやTシャツ、ジーンズにスニーカーといった姿を貫く。そのナチュラルさが、侑子という人物の芯の強さ、そしてそれを演じる杏の飾らない美しさを視聴者に強く印象づける。
ママ友ができたことで、それまで考えたこともなかった「小学校受験」を視野に入れ始めた侑子。息子の健太がグループ内の子どもたちの中で最も優秀だったことから、嫉妬ややっかみなどの暗い感情をぶつけられるようになる。戸惑い、悩み、苦しみといった、侑子の胸に渦巻く思いを、杏は視線の揺らぎなどの繊細な表情の変化で見事に表現。家庭内に問題を抱え、情緒不安定になっているママ友たちとは異なり、円満な家庭を築いているからこそ、安定した精神状態でいられる侑子をフラットに演じていた杏だが、秋山家にさまざまなトラブルが降りかかってくる第6話からは、困惑し、怒り、絶望するといった激しい感情を表現。それまでの抑えた演技とのギャップによって、物語をさらに盛り上げることに成功している。
侑子に特別な思いを抱くちひろを演じる尾野と、ちひろの夫・英孝役の高橋一生をはじめ、小林星蘭、藤本哉汰、谷花音ら名子役たちも圧巻の演技を披露する本作。時を経ても色あせることのない、友情、嫉妬、見栄、噂、建前、嘘、裏切りが目まぐるしく交錯する女の闘いを描いた衝撃の社会派ドラマの結末を、杏の演技に注目しながら見届けてほしい。
文=中村実香
放送情報【スカパー!】
名前をなくした女神
放送日時:2024年3月11日(月)12:20~
チャンネル:フジテレビTWO
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
詳しくはこちら