そして、この冷静な次男が実家の金銭事情もつまびらかにしたことで、家族は母親の病気だけでなく、金の問題にも立ち向かうことになる。長男と次男はまだ浮ついている父親をよそに結束を誓い合うのだが、この際の空気感が素晴らしいのだ。先にも述べたようにキャラクターの異なる兄弟の間に、"ああ、家族ってこういう感じだよな"という空気が漂う。それまで積み重ねてきた時間までも感じさせる空気感が流れるのだ。
これは2人の演技力と演出の妙が生み出した奇跡というと大げさだろうか。だが、妻夫木と池松をはじめとする登場人物全員の演技が素晴らし過ぎて、映画というフィクションを見ているにも関わらず、ドキュメンタリーを見ている感覚に陥る。克明や浩介のように突然のことにうまく対応できなかったり、言うべきことを素直に言えなかったりする人間のリアリティに加え、病院に集った時の父親と兄弟のそっくりな立ち姿にものすごい説得力があるのだ。
映画や文学は自分が生きている次元とは別のところに連れて行ってくれたり、他人事を自分事として真剣に考えさせてくれたりするところが利点だと思うが、この作品はまさに後者。対処法を必死に考えているのに病状の悪化した母親に忘れられてしまう長男の喪失感や頼りない父親への憤り、あまりにも最悪の家計に直面した際の次男の脱力感が、妻夫木と池松の演技からひしひしと伝わってくるので、自分ももっと親と会話しないとな、実家のお金のことも把握しておかないとな、と考えさせられるのだ。彼らのリアリティに溢れた演技が、エンタテイメントでありながら現実も見つめさせてくれる傑作だ。
文=及川静
放送情報【スカパー!】
ぼくたちの家族
放送日時:7月11日(木)11:40~
放送チャンネル:WOWOW4K
※放送スケジュールは変更になる場合があります
詳しくはこちら