ステージの上には手前にソファ、奥にベッド。その2つの真ん中に引かれたカーテン。例えばカーテンを引けば、ベッド側がホテル、ソファ側が自宅という2つのシチュエーションが出来上がり、奥行きだけでなく場面転換の際にも役立っている。そんなシンプルなセットだからこそ、会話劇が引き立ち、観客は役者たちに注目する。そしてテンポよく展開される会話は、ころころと話題を変え、また戻ったりとリアルな日常を描いていた。登場人物たちが丁々発止のやり取りを繰り広げる中で、何と言っても安達祐実の繊細な心の描写は素晴らしかった。自然体な仕草やセリフ回しはもちろん、笑顔の種類の多さに驚かされた。楽しさや愛情だけでなく、後ろめたさや嫌味っぽさも感じる笑顔なのだ。別れたいと思っているわけではないが、きっと別れるしかないんだろうなと悟っている夫婦の悲しい会話。不満の全てをぶつけてしまいたいがギリギリで踏みとどまるリアル。本音をぶつけ合ったら...壊れてしまうのか、それとも再生への道が開けるのか。夫婦でなくても、家族でなくても、どんな人間関係でも当てはまる心の対話が詰まっていた。舞台ならではの緊張感と役者陣の息遣い、いわゆる"生感"を味わうことができる秀逸作、涙ながらのカーテンコールも見逃せない。
文=石塚ともか
放送情報【スカパー!】
た組「綿子はもつれる」
放送日時:8月19日(月)08:15~
放送チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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