彼らのおだやかな生活に一石を投じる女性・リンを演じる平野綾は、大人の色気ただよう声と、常に悲しそうに寄せられた眉が印象的。水兵となって、すずの前に現れた初恋の相手・水原役の小林は、すずに「わしが死んでも笑ろうて思い出してくれ」と頼むシーンでの切実な声の揺らぎで、複雑な水原の心情を表現した。
大原櫻子、村井良大、桜井玲香、小野塚勇人が出演する回で大原が作り上げるすずは、表情でも歌声でも喜怒哀楽がはっきりしており、涙を流すシーンも多め。すずの心の内が手に取るようにわかるダイナミックな演技が観る者の胸を打つ。一方、村井が作り上げた周作は控えめで感情をあまり表に出さないタイプ。すずと周作が本音をぶつけ合うシーンでは、言い合いの中で、1フレーズごとに周作の声に感情が乗っていくという変化を村井が繊細なトーンで見事に表現している。
桜井は、遊女という自らの境遇を受け入れながらも、すずという友だちができたことを素直に喜ぶ、リンの少女らしい一面も感じさせた。そして、小野塚による水原は、笑顔が多く、明るく前向きな印象。すずとの納屋のシーンでは、まるで励ますかのように彼女の手を取るしぐさをみせた。
本作での注目のシーンは、すずと、元宝塚歌劇団雪組トップスターの音月桂 が演じる義理の姉・径子の二人が歌う「自由の色」。晴美を失ったことでわだかまりが残る二人が本当の家族となるこの曲で、昆&音月コンビは、互いの120%の歌唱力をぶつけ合い、大原&音月コンビでは、大原が音月に寄りそうようなソプラノで、美しいハーモニーを奏で、両日ともに客席からは大きな拍手が沸き起こっていた。
本作の楽曲を書き下ろしたのは、人気シンガーソングライターのアンジェラ・アキ。オープニングの群唱をはじめとするドラマチックな楽曲が、物語をさらに魅力的なものにしている。同じストーリーでも、キャストが変わるとどのような違いが生まれるのかを確かめながら、愛と感動のミュージカルを心ゆくまで味わって欲しい。
文=中村実香
放送情報【スカパー!】
ミュージカル「この世界の片隅に」昆夏美・海宝直人出演回
放送日時:11月10日(日)18:30~
ミュージカル「この世界の片隅に」大原櫻子・村井良大出演回
放送日時:11月17日(日)18:30~
放送チャンネル:衛星劇場
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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