生田絵梨花の名演がキラリ！"思い出の中の理想の彼女"と"10年後の彼女"の演じ分けに注目の「こっち向いてよ向井くん」

33歳の会社員・向井は、雰囲気良し、性格良し、仕事もできる良い男ながら、元カノ・美和子との別れを引きずっており、10年間も恋をしていなかった。そんなある日、職場に派遣社員・中谷真由(田辺桃子)がやってきて、良い雰囲気になっていく...。

同作品の注目すべきポイントは、30代という、"若手"から脱して人生の岐路にぶち当たった大人たちが、恋愛も含めて人生に悩み迷うさまを描いており、恋愛ドラマが苦手な視聴者も大いに楽しめるところだ。恋愛という切り口でありながら、今までの恋愛遍歴から人生を見つめ直し、「幸せとは？」という人生において最大のテーマに向き合っていく姿は、大人であれば誰しも共感できる内容になっている。

そして、そういったいわゆる"フェーズが変わった"状況の中での恋愛はことさら、向き合い方から進め方に至るまで、10代、20代だった"これまでの恋愛"とは違っている。そんな中で、"経験しているはずなのに初体験"という曖昧模糊なものに振り回される向井の姿がかわいらしくもあり、つい応援したくなる。

そして何より特筆すべきは、向井がさまざまな女性と出会い、何とか恋愛に発展させようと頑張るのだが、なかなかうまくいかないという流れを、向井サイドの視点で描いた後、すぐさま恋愛相手サイドの視点で解説編かのように描いている点。向井サイドでは相手のことを気遣って対応しているはずなのに相手の思惑は全く逆であったり、同じ方向を向いていたはずなのに歩幅の違いで距離が開いてしまいうまくいかなかったりと、恋愛ドラマでありながら人間ドラマでもある点が実によくできている。

制作陣が作品に練り込んだこの仕掛けを見事に成立させているのが俳優陣で、主演の赤楚はもちろん、向井の相手役を演じたヒロインたちの演技が素晴らしい。特に、生田は向井の最後の彼女という役どころで、第1話から第4話までは向井の回想シーン、第5話からはひょんなことで再会した元カノという難役をしっかりと表現している。

■向井の元恋人・美和子を生田絵梨花が理想的に好演

何が難役なのかというと、10年間恋をしていない33歳男性の恋愛の思い出に出てくる元恋人というのは、まさに"理想"で塗り固められた人物像であり、いわば"2次元の天使"のようなものだが、生田はそんな理想の存在を違和感なく好演。誰が見ても「こんな彼女だったら最高！」と思ってしまうほど、可愛らしく、愛らしく演じている。

そして、それを踏まえた上で、10年後の現実に再会した美和子においても、行動の変容で10年という年月を表現しながらも、しっかりと向井の心を惹きつける魅力も有しており、「第4話までの美和子は、やはり向井の理想が大いに作用していたのだ」と思わせないところが、役者としての地肩の強さを垣間見せている。"10年前の思い出の理想の彼女"と"10年後の現在の理想から大きく外れていない彼女"を演じ分けながらも、ちゃんと地続きで演じられる役者はそう多くはないだろう。

第4話からは、2度目となる向井との関係や、美和子自身の幸せに対する考え方、最終的に選んだ道など、こちらも恋愛という切り口でありながら人生について向き合う美和子という1人の女性の人生のターニングポイントが描かれており、見応えは十分。

大人の恋愛、幸せの定義、結婚という制度について、多様化した恋愛模様、男性と女性の考え方の違い、女性の強かさなど、さまざまな角度から楽しめる同作。そんな作品において、役者としての実力を存分に発揮している生田の名演に注目してみてほしい。

文＝原田健

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