高倉健が昭和を生き抜いた特攻隊として悲哀を訴えかける... 妻役・田中裕子との息の合った芝居も必見「ホタル」
俳優
(C)2001「ホタル」製作委員会
山岡を演じる高倉は、相変わらず最小限の言葉と表情で心情を表す芝居が抜群だ。妻役の田中裕子も好演。高倉とは24歳差と実年齢が離れているが、まったく違和感なく妻役を演じている。病弱で余命宣告(本人には伝えていない)されている設定で、弱弱しい声や姿勢だけでもそれを表現しており、丁寧な芝居にも感心する。
高倉との相性もぴったりで、特に楽しい思い出として挿入される、雪の八甲田山で丹頂鶴の真似をして2人がおどける場面が印象的だ。高倉同様に感情を爆発させるような場面こそないが、空気感だけで夫婦の絆を感じさせる高度な演技を見せてくれる。
■「知覧の母」を演じる奈良岡朋子の圧倒的な演技に感動!
(C)2001「ホタル」製作委員会
だが、本作でそんな2人の名演に比肩する素晴らしい演技を披露しているのが、山本富子役の奈良岡朋子だ。特に印象的なのは、施設への入居を機に開かれた「送る会」の席上で、藤枝の娘・真実(水橋貴己)に花束を渡された場面だ。
富子は特攻隊の若者たちに想いを馳せて、彼らを死地に送り出した悔恨の念を爆発させる。「実の親なら、我が子に死ねとは言わんでしょう。自分を捨てても子供を守るでしょう...」と涙を流して訴えるのだ。静かに進む物語の中で、登場人物の感情が発露されるこのシーンは胸を打つ。まさに圧倒的な演技であり、真に迫っている。昭和初期に生まれ、戦争を体験している彼女の思いが込められたのだろう。
物語の終盤で、韓国へ渡った山岡夫妻が金山少尉(本名キム・ソンジェ)の生家を訪れるが、当然ながら歓迎はされない。それどころか「あいつは死んだのに、何故お前は生き残った」と、厳しい非難の言葉すら浴びせられる。日本人として、見ていて辛くなる場面だ。
それでも、山岡は遺族に遺品を渡して、彼が残した遺言を伝える。金山がどんな思いで出撃していったのか、感情を押し殺しながらも必死でそれを届ける山岡の姿は、まさに高倉健の演技の真骨頂である。
公開当時、本作は「政治色が強い」という批判も受けた。だが、それが本作の評価を貶めているとは思えない。高倉健は、1テイクで撮ることにこだわった。「本物の心情を表現するためには、同じ芝居を何度も演じることは不可能」だと考えたからだ。「個人の生き方が芝居に出る」からと、日常生活のすべてが演技に繋がることを肝に銘じていたという。
そんな高倉の演技の真髄に振れられる作品である「ホタル」。反戦のメッセージを感じ取るというよりも、あくまで夫婦愛を描いた人間ドラマと捉えたほうが正しいのかもしれない。
文=渡辺敏樹
放送情報【スカパー!】
ホタル
放送日時:2025年11月10日(月)18:00~
放送チャンネル:東映チャンネル
出演:高倉健、田中裕子、小林稔侍、夏八木勲、井川比佐志、奈良岡朋子、中井貴一、原田龍二、水橋貴己
※放送スケジュールは変更になる場合があります。
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