コラムニスト・吉田潮が「ウォーキング・デッド」シリーズを語る!

実はゾンビものが苦手。腐肉と血みどろの映像、急襲や惨劇の連続に不随意筋を刺激されて疲れるから。でも、この長編大作は死ぬまでに一度は見るべき。そう思えた。スケールの大きさ、登場人物の多様性、人としての正しさや倫理観を問うてくる命題の数々。深くて重くて面白い。

「ウォーキング・デッド シーズン10 新エピソード」より

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主人公の保安官リック(A・リンカーン)は犯人に撃たれ、重体に。病院で目覚めると、世はゾンビだらけの地獄と化していた。ゾンビと呼ばず"ウォーカー"(歩く死人、以下W)と呼ぶ。妻と子を探し当て、生き延びた人々とグループを結成し、Wと戦う。

脳さえ破壊すれば退治できるWとの戦いだけでは終わらない。食料や武器、居住地を巡って人間同士の争いへと展開する。

リックはリーダーの苦悩も抱える。家族を亡くした喪失感で心を病み、意見対立に悩み、判断を誤る時も。正論だけでは太刀打ちできない局面も迎える。

登場人物も多彩で魅力的。特に女性たちが主張し、戦い、Wだらけの地獄でも未来を築こうとする姿が胸を打つ。キャロル(M・マクブライド)は夫からDVを受け、常におびえていた主婦。娘を失い、戦う強さを身に付け、仲間を危機から救う活躍も。キリスト教徒の彼女は、殺人に対する罪の重さや復讐のむなしさに苛まれ、幻覚にも苦しむ。心模様の変化が最も激しい一人だ。

殺りくと戦闘の状況下でも愛を育み、出産する女性も多い。音で集まるWと戦う中、不意に泣く赤子の存在は厄介だが、誰もが全力で子供を守る。社会とはそういうものだと教えてくれる。

ボーガンの名手・ダリル(N・リーダス)は荒くれ者で無愛想だが、最も頼もしい男だ(塩辛声がカッコイイのよ!)。ユージーン(J・マクダーミット)は知識豊富で頭脳明晰。アスペルガー気質の彼が活躍する点も、対等で平等、多様性を重んじる志の高さを感じる。

また、仲間を惨殺し、略奪と支配の蛮行を繰り返した宿敵・ニーガン(J・ディーン・モーガン。実は私のタイプ)の改心も見どころの一つだ。

「フィアー・ザ・ウォーキング・デッド シーズン5」より

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仲間や家族を殺した人間への復讐心。果たして「情けは怒りに勝る」という性善説を貫き通せるのか。視聴者に常に突き付けて揺さぶってくる。3週間で全話を一気見し、正直心身ともに疲れたが、21世紀の傑作ドラマと強く断言してもいい。この疲労感、味わって損はない。

よしだ・うしお●'72年生まれ。ドラマ好きのコラムニスト兼イラストレーター。週刊誌や新聞でテレビ・ ドラマ評を執筆。時々テレビにコメンテーターとして出演。著書「くさらないイケメン図鑑」など著書多数。ネコ2匹と同居中。

文=吉田潮

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放送情報

ウォーキング・デッド シーズン10 新エピソード
放送日時:2020年10月5日(月)22:00~
フィアー・ザ・ ウォーキング・デッド シーズン5
放送日時:2020年10月12日(月)22:00~
チャンネル:FOX
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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