芥川賞作家・田辺聖子の名編を実写映画化し、妻夫木聡と池脇千鶴が息の合った演技を見せた"ジョゼ虎"こと『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)。公開から20年近くが経った今なお、人々の記憶に残る"車いすの少女・ジョゼ"を取り巻く物語があらためて脚光を浴びている。昨年末には、中川大志&清原果耶が声優を務めたアニメ版が各国の映画祭で話題を呼んだほか、韓国でもリメイク版『ジョゼ(原題)』が公開。この10月からは、日本でも『ジョゼと虎と魚たち』のタイトルで公開を迎えている。
美しい映像美でも話題の韓国版の"ジョゼ虎"だが、出色はジョゼ役のハン・ジミンとジョゼに惹かれていく大学生・ヨンソク役を演じたナム・ジュヒョクによる"ケミ"。互いに惹かれ合う過程を説得力のある演技で見せ、韓国はもちろん、日本でも早くも好評を呼んでいる。
実は、2人は"ジョゼ虎"が初共演ではない。2人のケミストリーの萌芽が味わえる初共演作と言えば、韓国で"国民の母"とまで呼ばれる大女優キム・ヘジャと肩を並べた「まぶしくて―私たちの輝く時間―」だ。
「まぶしくて―私たちの輝く時間―」は、夢に挫折しかけている25歳のヒロイン・ヘジャ(ハン・ジミン/キム・ヘジャ)と、心に孤独を抱える青年・ジュナ(ナム・ジュヒョク)が織り成す珠玉のハートフルドラマ。
時間を巻き戻すことのできる不思議な腕時計を持つヘジャ。だが、時間を戻せば戻すほどヘジャ自身は早く年をとってしまう。そのことに気づいてからは時計を使わないようにしていたものの、あるとき大切な家族を守りたい一心で何度も時間を巻き戻し、ヘジャは一気に70歳になってしまう。この作品は、70歳になってしまったヘジャと青年ジュナの物語なのだ。
70歳のヘジャを演じた大女優キム・ヘジャに対して、25歳のヘジャを演じているのがハン・ジミン。時計の影響で同級生よりも年上に見える設定ゆえに、演じるジミンも1982年生まれの37歳(当時)。1994年生まれのジュヒョクとは実年齢で10歳以上の開きがあるが、コンビネーションは絶妙。ほぼ同年代という設定にもまったく違和感はない。
アナウンサーになりたいという夢を持ちながらも、自分の実力ではそれが叶わないことを薄々感じ始めているヘジャ。一方、放送部の集いで出会った記者志望のジュナは、酒乱の父と自分を捨てた母を憎み、どこか周囲と馴染めずに日々を過ごしていた。
うまくいかない毎日に嫌気がさして飲み屋でひとり酔っぱらうヘジャ。たまたま彼女を見かけたジュナは興味本位で近づくが、"夢を捨てる勇気がない"と泣くヘジャの姿を目の当たりにして、信頼にも似た感情を持ち始める。
188cmという身長と完璧なビジュアルを併せ持ち、ファッションモデルとしてデビューした2013年以降、瞬く間にスターダムに上り詰めたジュヒョク。人の目を自然と引き寄せる天性の能力で、人から愛される好青年を演じてきたにも関わらず、今作で彼が漂わせるジュナの孤独には、まるでジュヒョク本人に潜む「陰」を映し出しているのでは?と思わせるリアリティがある。
そんなジュナの心を動かすのが、ドン臭くて生きることに一生懸命なヘジャという女性であることが、見る者に安心感と親近感を与える。そして、2人を応援したいと思えた矢先、ヘジャは70歳のおばあさんになってしまうのだ。
ジュヒョクもスター街道を走ってはいたが、キム・ヘジャ、ハン・ジミンという経験豊かな先輩女優と現場を共にした今作は、「演技者としての才能が覚醒した」とまで高く評価された作品だ。実際、この「まぶしくて―」以降、『ジョゼと虎と魚たち』のみならず、世界中で反響を呼んだ「保健教師アン・ウニョン」「スタートアップ:夢の扉」の主演と、その勢いがますます加速している。
『ジョゼと虎と魚たち』が公開中の今こそ、それぞれの魅力をさらに引き出したジミン&ジュヒョクのケミを改めて体感してみてほしい。
文=酒寄美智子
放送情報
まぶしくて―私たちの輝く時間―
放送日時:2021年12月8日(水)15:20~
※初回は15:20~(1話のみ放送)
※12月9日(木)より毎週(水)(木)14:00~(2話連続放送)
チャンネル:テレ朝チャンネル1
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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