薄っぺらいのに色気がある...松坂桃李が映画『かの鳥』で見せた顔

写真左から蒼井優、松坂桃李
写真左から蒼井優、松坂桃李

近年、若手の実力派俳優として注目を集める松坂桃李。彼が出演する2021年のドラマや映画を見ても、中年男性の身体に入り込んだ最愛の女性を一途に思い続ける心優しきスーパー店員を演じたドラマ「あのときキスしておけば」をはじめ、最愛の娘を失った父親から執拗に責め立てられるスーパーの店長を演じた映画『空白』、そして亡き先輩の遺志を受け継ぎ、裏社会でタフに生きる若き刑事を演じた映画『孤狼の血 LEVEL2』など、その振り幅は驚くほどに広い。

そんな松坂桃李という俳優について『空白』の吉田恵輔監督は、同作のインタビューで「桃李は受けの達人というか、どんな球が来てもリアリティーを持って受け止められる」と評していた。確かに先述した作品でも井浦新(「あのときキスしておけば」)、鈴木亮平(『孤狼の血 LEVEL2』)、古田新太(『空白』)といった俳優陣が怪演を見せていたが、それでもなお、これらの作品で彼の個性が埋没することはなかった。希有な個性の持ち主である。

『彼女がその名を知らない鳥たち』より

(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

そういう意味では、8月に東映チャンネルで放送される2017年公開の映画『彼女がその名を知らない鳥たち』も、蒼井優、阿部サダヲという強烈な俳優たちに真っ向から挑んだ1本として興味深い。「イヤミスの女王」と称される沼田まほかるの同名小説を、『孤狼の血』の白石和彌監督が実写化したミステリー作品だ。

恋愛に依存する女、十和子(蒼井優)は、15歳年上の男・陣治(阿部サダヲ)と暮らしながらも、8年前に別れた男・黒崎(竹野内豊)のことを忘れられずにいた。十和子は、不潔で下品な陣治に嫌悪感を抱き、罵詈雑言を浴びせているにもかかわらず、陣治の少ない稼ぎに頼って働きもせずに怠惰な暮らしを送っていた。罵倒されてもなお、「十和子のためなら何でもできる」と言い続ける陣治を完全に見下している十和子は、どこか黒崎の面影を感じさせる水島(松坂桃李)と出会い、情事に溺れるようになるが、陣治は、その情事の現場を執拗に追い回していた。

そんなある日、ふとしたことから黒崎が失踪していることを知った十和子は、陣治が黒崎を殺したのではないか、そして次は水島に――という疑念を抱くようになる。

(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

劇場公開時、「共感度0%、不快度100%」というキャッチコピーが話題となった本作だが、主人公の十和子と陣治も、そして十和子が惹かれる水島も黒崎も、皆が皆、そろって不快な人物ばかり。松坂演じる水島は、百貨店に務める時計の販売員。その外見は清潔感にあふれ、振る舞いも紳士的に見えるが、その中身はどこまでも空虚で薄っぺらい。だが妙な色気がある水島に、十和子はどんどん惹かれていく。

恋愛依存体質の十和子はそんな水島の薄っぺらさにうすうす気付いてはいるが、そうしたことには目をそらし続けて、その薄っぺらい言葉にどんどんと酔いしれていく。陣治はそんな十和子の危うさが心配でしょうがないが、その思いは十和子には届かない――。

まさに適材適所のキャスティングが魅力的の本作だが、白石監督も本作パンフレットのインタビューで、「松坂くんは映画全体の中で自分のポジションや役割は何かをすごく考えて、理解している役者。その上で本当に誠実にこの薄っぺらい役に取り組んでくれました」と振り返っている。

主要な4人のキャストがそれぞれ「今まで見たことがないような顔を見せていた」と評判を呼んだ本作。そんな俳優たちのアンサンブルは驚きとともに、ズシリとしたものをもたらしてくれる。

文=壬生智裕

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放送情報

彼女がその名を知らない鳥たち
放送日時:2021年8月9日(月)22:00~ほか
チャンネル:東映チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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