大河ドラマ「どうする家康」に出演した有村架純が、葛藤する複雑な心情を見事に表現した映画「前科者」

(C)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

コンビニ勤務と保護司の仕事を両立させている阿川はひとり暮らし。極めて質素な生活を送っている。人に尽くし、社会に貢献する温厚な人物かと思いきや、阿川はその使命感の強さのあまり、時々、感情のメーターが振り切れる。初めての保護観察対象者で今は便利屋を営んでいるみどり(石橋静河)に人間的な弱さを指摘され、「前科者に必要なのは、あんたみたいな人間だよ」と言われる阿川は、いきなり怒ったり、自転車を全力で漕ぎながら絶叫したり、保護観察中の詐欺師にお酒を勧められて1杯のつもりが泥酔したりと、決して情緒が安定しているタイプではない。

その一方で、殺人を犯した工藤(森田)に更生できると思うか?と問われ、「はい。できると思います」と答える顔には一点の曇りもない。普段は淡々としている女性の静と動のスイッチが切り替わる瞬間を表現した有村の演技にはリアリティと迫力があり、「彼女はどんな人生を過ごしてきたのだろう?」と考えさせられる。非常に人間くさいタイプの保護司という難役を見事に演じきっている。

■工藤に寄り添うことで自分の過去に向き合い、成長していく阿川

更生するために自動車工場で働いている工藤は寡黙で、少年時代に起きた悲しい事件がトラウマとなり、犯罪を犯した過去を持つ。真面目に頑張っている工藤との距離が少しずつ縮まる中、連続殺人事件が起こったことによって阿川は同級生であり、刑事になった滝本(磯村勇斗)と再会することになる。本作には中学生だった滝本と阿川に起きた出来事がフラッシュバックとして描かれているが、今にも折れてしまいそうな工藤に必死で寄り添おうとする阿川もまた心に深い傷を負っていたのだ。人を更生させる保護司になったことはある意味、自分のためでもあった。そう思わせる有村の演技が突き刺さり、森田の自分を押し殺したような演技の凄さもあいまって、重いテーマ、問いかけがズシリと響く。一度、観たら忘れられない再生の物語。女優、有村にとってもターニングポイントとなった作品に触れてみてほしい。

文=山本弘子

この記事の全ての画像を見る

放送情報

前科者(2022)
放送日時:2023年4月13日(木)20:45~ほか
放送チャンネル:WOWOW4K
※放送スケジュールは変更になる場合があります

詳しくはこちら

キャンペーンバナー

関連記事

関連記事

記事の画像

記事に関するワード

関連人物