広瀬すずの圧巻の演技力が心を揺さぶる!観客に「胸が詰まる」と言わしめた映画「怒り」

映画「怒り」に出演する広瀬すず
映画「怒り」に出演する広瀬すず

姉の広瀬アリスがモデルを務めていたことがきっかけで芸能界に飛び込み、今や国民的女優として名を馳せる広瀬すず。人気コミックを映画化した6月公開の映画「水は海に向かって流れる」では主演を務め、感情を出さないクールな会社員・榊千紗を演じるなど大活躍中だ。

あどけなさが残る容姿はもちろん、演技への評価も高く、2015年の映画「海街diary」では第39回日本アカデミー賞の新人俳優賞を始め数々の映画賞を受賞。翌年には初の主演映画「ちはやふる-上の句-」で第40回日本アカデミー賞の優秀主演女優賞と、立て続けに大きな賞を受賞している。

"清純派"といったイメージがあるせいか、青春ものやホームドラマが似合う広瀬だが、彼女が新境地を切り開いた作品として話題となったのが2016年公開の映画「怒り」だ。吉田修一の小説を原作とした群像ミステリードラマで、監督は李相日が務めた。

物語は、八王子で凄惨な夫婦殺人事件が発生したところから始まる。夫婦を殺害した犯人は、現場に「怒」の血文字を残して逃走。整形手術で顔を変えたとの情報もあり、未だ捕まっていない。そして事件から1年が経過した頃、東京、千葉、沖縄の3つの場所に前歴不詳の男性が現れ、彼らを軸としてドラマが形成されてゆく。

東京では、大手企業に務める同性愛者の男性・藤田優馬(妻夫木聡)が大西直人(綾野剛)と出会い、深い仲になってゆく。千葉では、槙洋平(渡辺謙)が働く漁港に現れた田代哲也(松山ケンイチ)が、傭兵の娘・愛子(宮崎あおい)と仲良くなってゆく。そして沖縄では、東京から引っ越してきたばかりの広瀬演じる小宮山泉が、無人島で気さくなバックパッカー田中信吾(森山未來)と出会う。

3つの場所の視点を切り替えながら物語は進んで行く。前歴不明ではあるが、大西も、田代も、田中も実直に人と接するため、やがて周囲も彼らに信頼を寄せるようになる。

しかし、警察が公開した夫婦殺人事件の犯人の風貌と似ていることから、周囲の信頼はやがて疑念へと変わってゆく。豪華キャスト陣それぞれが渾身の演技で、その生き様や変化してゆく人間模様をまざまざと見せてくれるが、ここでは小宮山泉を演じる広瀬に注目したい。

青い空の下、友人の知念辰哉(佐久本宝)が操るボートで海を行く泉の姿はとても健康的な印象だ。無人島の廃墟で突然現れた田中に驚いて尻もちをついたり、田中のザックを背負ってはしゃいだりする様は、子供っぽさが残る思春期の若者そのものだ。

明るいシーンばかりではない。辰哉と田中の3人で食事をしながら、男性と問題を起こしてばかりいる母について語る時には、落ち着きなく視線を移動させる。やるせない本心をさらけ出している様子がよく分かる。無邪気な笑顔だったり、本音を話したり、さまざまなシーンで泉の心情が伝わってくる。

圧巻なのが、居酒屋から出た後に事件に巻き込まれるシーン。その時の凄惨な泉の姿は、ネットなどでも「胸が詰まる」「辛くて正視できない」といった声が挙がるほどだった。視聴者にそう感じさせられるのは、やはり広瀬の演技の力だろう。

本作における演技については、李相日監督から厳しい指導を受けたという。努力し、それに応えたからこそ、見る者の心を揺さぶる演技となったのだろう。広瀬は第40回日本アカデミー賞において、上で触れた優秀主演女優賞の他に、本作で優秀助演女優賞を受賞している。それほど強烈な印象を残す演技だった。

3つの場所に現れた前歴不詳の男たちの中に、夫婦殺人事件の犯人はいるのか。いるとしたら、誰なのか。そして心に傷を負った泉の未来は? 渡辺謙ら豪華キャストと、広瀬すずらの名演技によって表現される「怒り」の意味を、じっくりと味わいながら本作を見てほしい。

文=堀慎二郎

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放送情報

怒り
放送日時:2023年6月17日(土)23:45~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

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