本作での十兵衛はふだんは穏やかだが、世の中を憂い、無駄な血が流されることを見て見ぬふりはできない男として描かれている。京に初めて行った時に世話になった松永久秀(吉田鋼太郎)、そして三好長慶(山路和弘)の暗殺計画を偶然、耳にした時は室町幕府の将軍・足利義輝(向井理)の館に向かい、幕臣の三淵藤英(谷原章介)と後の盟友となる細川藤孝(眞島秀和)に助けを求めに行く。父から武士の魂を引き継いでいる十兵衛は「これは私情で申し上げているのではありません! 武士の一人としてお願い申し上げているのです!」と必死で説得。やりとりを裏で聞いていた義輝も動くことになる。後に織田信長(染谷将太)の暗殺が企てられていることを知った時も十兵衛はその知力と行動力で京を収めるほどの力を持った松永のもとを訪ね、道三の嫡男である斎藤義龍(伊藤英明)の計画を未然に防ぐ。実直であるゆえ、恋愛にも不器用で道三の娘であり、幼なじみの帰蝶(川口春奈)に愛されていることを知りながら、美濃のために信長のところに嫁ぐよう進言する辛い役目を果たすことになったり、つねに十兵衛を心配して慕っていた駒にもあえて距離を置く態度をとったりしてしまう。
■織田と明智。その深い絆を長谷川と染谷が魂の演技で表現
うつけものと言われていた信長を明智が最初に見たのは海で無邪気に漁をし、町人たちに魚を売っている姿だった。同じように今の世はおかしいと感じていた2人の絆は深まり、帰蝶の存在もあって、やがて明智は信長の家臣となる。本作では信長は親にも兄弟にも愛されなかった孤独を抱えた人物として描かれ、初めて褒めてくれたのが帰蝶と明智。それゆえに絶対的な信頼を置いていたと思わせられる。権力を持つに従って尊大になっていく信長に失望した明智はついに信長暗殺へと舵を切る。本能寺に攻めてきたのが明智だと知って「そうか。十兵衛か。であれば是非もなし」と声をあげて笑う染谷の演技、苦悩の表情を浮かべ、燃える本能寺を見て涙を浮かべる長谷川の無言の表現は息をのむほど。新たな明智光秀を演じきった。
文=山本弘子
放送情報
大河ドラマ「麒麟がくる」
放送日時: 2023年9月25日(月) スタート(月~金)8:00~9:00
※25(月)のみ8:00~9:30
チャンネル:チャンネル銀河 歴史ドラマ・サスペンス・日本のうた
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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