作品全体が説明過多にはならず、余白で物語を埋めるというテイストになっている。初の映画主演で、こうした作風であることに、井口自身も相当な覚悟を持って臨んだことを舞台挨拶でも明かしていた。
実際、劇中のススメは、宮子に惹かれていくさまは描かれていたものの、その理由や心の揺れは、ほぼ説明がない。その場の瞬発力でどうにかなるようなキャラクターではないことは察していたようで井口自身、ススメがどんな生き方をして現在のような人間になったのか...ということを半年に渡って向き合ったという。
演じるというよりも、自身にしみ込ませるというアプローチ方法は、想像以上のカロリーを消費するが、こうした監督の要求を繊細に演じ切った井口。ススメと宮子の関係性は、多くのことを想像させるほど立体的だ。
アーティストが演技をする際、監督は「独特の間」に期待することがあると語ることが多い。井口自身のカリスマ的な存在感が、作品のなかでどう作用するかは作風によって異なるが、本作で見せたススメの自意識は、市井の人が持つ自意識のそれであり、まさにススメを体現していた。
本作によって「向いていない」と思っていた俳優業に対して「新たなスタートを切れた」と語っていた井口。今後も"俳優・井口理"を観たいと思える作品に仕上がっている。
文=磯部正和
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ひとりぼっちじゃない
放送日時:1月6日(土)22:15~ほか
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