現実では霧島(渡辺大知)・通称二(数字の2が下手すぎて読めないことから江藤が霧島につけたあだ名)からのアプローチを嫌とは言いつつも何だかんだ受け入れ、恋愛未経験者の江藤の気持ちはイチと二の間で暴走していく。
そんな中、自宅でボヤ騒ぎを起こした江藤は「人間はいつ死ぬかわからない」と中学生で記憶が止まっているイチと現実で会うため同窓会を企画する。当時のクラスメイトの名を借りて企画した同窓会で実際に江藤はイチと再会することが出来たが、そこには予期せぬ事態が待ち受けていた...。
松岡は先にあげた「ギークス~警察署の変人たち~」でも一風変わった有能ではあるものの人付き合いが苦手な鑑識官を演じているが、本作品でも相当に変わった人物を演じている。
江藤が片思いするイチはクラスの人気者であったが江藤との接点はほぼなく、作中で登場する学生時代の江藤とイチが喋った場面はたったの3回。そして、江藤がイチとの思い出を何度も何度も回想していることから、恐らくこの3つの記憶が学生時代の2人の接点の全てなのだろうとわかる。それでも尚、江藤は10年以上イチに片思いをしていた。
このように江藤は現実が妄想で支配された女だ。松岡はそんな女性を体当たりで演じ切る。その姿は設定的には現実離れしているにも関わらず、この女性は現実に存在していて他人事ではないのだという説得力を持っているのだ。
例えば、1人で絶滅した生物の図鑑を眺めている江藤と、妄想の人物に喋っている江藤、現実で同僚の来留美と喋っている江藤はあまりの表情や態度の落差に笑ってしまうくらい違う。だが、現実に生きている人々もみなペルソナを持っていて、きっと誰しもが違う表情を持っている。その事実を突飛な設定を介してスクリーン上で表現する松岡はただただ素晴らしい。
■現実を生きる全ての人へ
物語は後半になるにつれて加速していく。イチの再会や二との交際、来留美とのいざこざ。これらは全て妄想で生きていた江藤には縁の無かったものばかりだ。しかし、物語を観ていれば全て江藤が決断してきたことだとわかる。その決断の多くは時に苦しい。実際、江藤は作中で沢山泣く。だが松岡は同じように泣いているわけではない。その場面に応じて伝うような涙もあれば、泣きじゃくり暴れることも悲嘆にくれてただただ泣き続けることもある。その振り幅は劇中で是非注目してほしい。
涙を流しながら松岡は妄想の江藤から現実の江藤への変化を表現する。ラストシーンでは、劇中の決断全てが集約されている。そうして松岡は現実を見つめ、しっかりと言葉を紡ぐ「勝手にふるえてろ」と。この言葉が江藤自身に向けられているのか、二に向けられているのか、それとも本作品を観切った貴方に向けられているのか。松岡の芝居を感じながら、鑑賞してぜひ確かめてほしい。
文=田中諒
放送情報【スカパー!】
勝手にふるえてろ
放送日時:9月5日(木)19:00~
放送チャンネル:衛星劇場
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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