ニヒルな中年男で、いつもタバコをくゆらせて留美にも極めてクールに接する。捜査は仲間に任せ、自分だけサウナに行ってしまうなど、ふざけた態度こそ見せるものの、じつは洞察力に優れて犯人の心理を読むことに関しては天才的。彼もまた超有能な刑事なのだ。コミック作品の映像化ということで、多少コミカルな演出も見られるが、本作の魅力は、犯罪者の心理を丁寧に描いた骨太なストーリーにある。
例えば、コンビニ強盗にバイト店員だった妹を殺された男が登場するエピソード(第5話)があるが、殺された妹の容姿をからかうような世間の冷たい声にいびつな怒りを沸騰させ、自らがコンビニを襲って籠城事件を起こす。偶然コンビニに居合わせた留美が必死に犯人を説得するが、視聴者が犯人側に同情してしまうような筋立てなのだ。単純に悪を悪として描かないあたりは、同局の名作ドラマ「特捜最前線」を思わせる。脚本を書いた矢島正雄も同作に参加していたし、人間の本性を奥深く描くのが得意な矢島の作風は本作でも存分に発揮されている。ちなみに第5話に籠城犯役でゲスト出演していたのが、ネプチューンの名倉潤。暗い目をして人生に絶望しきった男を巧みに演じて好演ぶりが印象的だ。ほかにも、デビュー間もない頃の吉高由里子が女子高生役で出演(第2話)するなど、毎回登場するゲストの顔ぶれにも見どころが多い。
ただ、本作の魅力はやはり主演の2人。特に木村佳乃の好演に尽きると言ってもいい。木村演じる留美には刑事だった夫が海で人命救助をした際に溺死してしまうという悲しい過去があった。第1話では、その時に夫が命がけで助けた男の後日談が描かれる。彼に対して、留美が亡き夫の思いを感情的にぶつける場面での木村の演技はまさに圧巻であり、胸を打つ。曲者ぞろいの仲間に対して、前半では狂言回し的な役割もしているが、抑揚の付け方が抜群で、序盤の抑えた演技があるからこそ、後半の強い芝居が生きるのだ。木村の女優としての力量に改めて気づかされる作品になっている。
舘ひろしもまさに彼にしかできないような役柄で、ハマり過ぎて思わず笑ってしまう場面もありつつ、ツボを押さえた演技で画面を引き締めてくれている。主役2人を中心に、ゲストを含めて芸達者な俳優陣の演技合戦が見られる「PS-羅生門-警視庁東都署」。派手さこそないものの、ヒューマンドラマとしての完成度が高く、見ごたえ十分な大人のドラマとして、おすすめしたい。
文=渡辺敏樹
放送情報【スカパー!】
PS-羅生門-警視庁東都署
放送日時:10月23日(水)15:00~
放送チャンネル:東映チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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