
物語の舞台は、栗田科学という教育用のプラネタリウムなどを扱う小さな会社。そこで働く藤沢美紗(上白石)は、月に一度、どうしようもないイラ立ちを覚えるPMSに悩まされており、元大手企業勤務の山添孝俊(松村)はパニック障害を抱えている。その2人がある時、互いに抱えている症状を知り、そこから奇妙な交流が始まっていく。
山添くんが電車に乗れず、徒歩圏内だけで生活していることを知った藤沢さんが、使っていない自転車を洗ってプレゼントしたり、山添くんが自分で髪を切ろうとしているのを見て、藤沢さんが切ってあげたり...。そんな藤沢さんの行動が山添くんの心を動かし、彼もPMSを理解しようと歩み寄る。そうした日々のなかで、一緒にプラネタリウムのナレーションを担当することになり、仕事を通じて2人は前進していくことになる。
■松村と上白石の自然な芝居と癒し系ボイスにほっこり

このナレーションを読み上げるシーンでは、癒し系ボイスの持ち主である松村と上白石が真骨頂を発揮する。ため息が出るほど、穏やかなシーンなのだが、まるで互いが互いの声に癒されているようにも見え、そこから2人の生活も安定していくから不思議だ。また、上白石は百合の花のような上品さの中に肝っ玉かあさんのような温かみのある俳優だが、今作では素の魅力がそのまま生かされていて、松村演じる山添くんもそこに触れることで症状が癒えていくように見える。
一方、松村はインタビューなどから推察すると周囲に惑わされないマイペースな人物のようだが、そこが何事にも動じない山添くんとピッタリ。藤沢さんがイライラし始めると周りの目を気にせずに引っぱってきて車の掃除をさせるなど、淡々と行動する山添くんをとても自然に演じている。主演の2人の芝居があまりにも自然なので、生きづらさというテーマを素直に受け止められ、認識を深めることができる。おかげで鑑賞後は他者への理解が深まり、明日は今日よりもやさしくなれそうな一作だ。
文=及川静
放送情報【スカパー!】
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放送日時:2025年5月11日(日)22:00~ほか
放送チャンネル:日本映画専門チャンネル
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