そして"奇妙な記憶と秘密を抱えた妹"という難役を担ったのが有村だ。未来に向かっていく喜びと、兄のもとを巣立っていく物悲しさが混ざり合ったフミ子の心情を、有村が鮮やかに表現。フミ子は結婚前の複雑な感情を抱いているだけでなく、すでに亡くなっている別の女性の記憶が入り込んでいる...という一筋縄ではいかない役どころだ。

穏やかな笑顔で当たり前の日常を過ごしているように見えながら、有村演じるフミ子の心の奥底には、常にあらゆる人に注ぐ思いやりが渦巻いている。その思いやりの理由や、すべての秘密が明かされた後には、繊細な演技を込めた有村の俳優としての凄みを実感せずにはいられない。また、ウェディングドレス姿での涙もまぶしいほどに美しく必見だ。

初共演となった鈴木と有村のコンビネーションも抜群だ。お互いに関西出身ということもあり、軽妙なセリフのやり取りが最高に楽しく、思わずニヤニヤしてしまう。長年、支え合いながら暮らしてきた兄妹の絆を、しっかりと映画に刻み込んでいる。

ファンタジックな展開がありながら、本作から伝わるのは"大切な人に何ができるか"という人生の土台となるテーマ。公開時には「号泣した」という観客も続出したクライマックスは、忘れ難い余韻を残す。

文＝成田おり枝