吉永小百合に釘付け...監視される中での沈黙の感情表現が光る「日曜劇場『張込み』」

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吉永小百合の繊細な演技で観る者の道場を誘う
吉永小百合の繊細な演技で観る者の道場を誘う

※カラー作品

画角も柚木刑事目線のカットで「今後の物語の見方も柚木刑事の視点で見てもらいたい」という演出なのだが、この演出の肝を吉永の美しさが一手に担っており、しかもそれを見事に実現させているところがすごい。当時の映像のため画質も粗いのだが、そのマイナスを補って余りある吉永の神々しさは、視聴者を瞬間的に作品世界へ没入させる引力があり、まさに"本物の大スター"のオーラを感じることができる。

しかも、その華々しい見た目とは裏腹に、どこか浮かない、はかなげな表情をたたえているところもポイントで、柚木刑事同様にさだ子に興味が湧いてしまうという効果も付与。"なぜか気になる""どこか気になる""一挙手一投足に目が離せなくなる"という昭和の大スターならではの存在感を有しながらも、幸せとは言えない暮らしをしている悲哀が切なく、観る者の同情を誘うところが憎い。

また、柚木刑事の視点で物語が進行していくため、基本的にさだ子は幸せではないながらも不幸でもない日常のシーンが続くだけで、吉永はこれといったせりふはないし、一見すると普通に暮らしているだけなのだが、吉永はワンシーン、ワンカットに、さだ子の"本心を押し殺したような表情"を忍ばせたり、夜に夫に誘われた際も1度目は気付かないようなふりをして断りたい心をにじませたりなど、繊細極まる演技でさだ子の心の機微を表現。

決して表には出さないが、集中して見ていると感じ取れるというレベルの細やかな表現を重ねることで、視聴者にだけ伝わるというクオリティーの高い芝居で、さだ子を作り上げている。

■繊細さだけではない、豪快さも見られる演技の幅の広さ

一方で、ラストシーンでの清水から飛び降りる思いで決行した行動とその計画が水泡に帰してしまった時の感情があふれて号泣するシーンでは、それまで積み重ねて押し殺してきた細やかな表現を裏切るかのように豪快でストレートな感情表現も披露。繊細さだけでなく豪快さに至るまで、演技の幅の広さも見せている。

事件という観点からすれば脇役であるさだ子を、物語上で主演にポジションチェンジさせているという松本清張の文筆力があってこその作品を、存在感と演技力が共存した吉永小百合という大女優だからこそ映像化できたといっても過言ではない名作。ぜひご覧いただき、あまたある彼女の魅力の中でも特に象徴的な魅力に"張込み"してみてほしい。

文=原田健

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放送情報

日曜劇場 「張込み」
放送日時:2025年12月6日(土)19:00~
放送チャンネル:TBSチャンネル2 名作ドラマ・スポーツ・アニメ(スカパー!)
出演:吉永小百合、荻島真一、森本レオ、佐野浅夫、森塚敏、前田昌明、児玉謙次、樋口和子、中島元、松村彦次郎、安田隆、桐原史雄、大沢慎吾、三川雄三、戸沢佑介、大平加奈子、須田圭一、西山水木 ほか
※放送スケジュールは変更になる場合があります。

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