
河合優実は、2019年から俳優としての活動をスタートさせ、2020年の「佐々木、イン、マイマイン」などの出演を経て、2021年の伊藤万理華主演「サマーフィルムにのって」、瀧内公美主演「由宇子の天秤」での演技が大きな転期となり、「ヨコハマ映画祭」「ブルーリボン賞」「高崎映画祭」などで多くの新人賞を獲得した。その後、2024年放送のドラマ「不適切にもほどがある!」で主演の阿部サダヲが演じる中学校の体育教師・小川市郎の娘・純子役で注目を集めたほか、同年公開の「あんのこと」「ナミビアの砂漠」では主演を務め、俳優としての表現力の豊かさを知らしめた。2025年には連続テレビ小説 「あんぱん」に出演し、映画「敵」も公開された。
「敵」では、瀧内と河合の再共演も注目されていた。「敵」は全編モノクロの映像で構成されていて、"現実"と"妄想"の境界線がわからなくなる作品となっている。物語の前半は、儀助の日常をリアルに描き、儀助がどういう人物なのか、どういう生活を送っているのか、どういう考えを持っているのかを見ている者に伝えてくれている。
瀧内が演じる"靖子"は、儀助が大学教授だった頃の気持ちを思い出させてくれる存在で、"現実"側の存在として重要な役割を担っている。しかし、ただの元教え子というだけではなく、彼女に対して違う感情も密かに抱いていて、それによって儀助の気持ちが揺らぎ、"現実"や"日常"の崩壊につながりそうな危うさも。
河合が演じる"歩美"は、儀助が後輩に連れて行ってもらったバー「夜間飛行」で出会った大学生。若い世代がフランス文学に興味を持っていることを嬉しく思う儀助は、歩美と話すことに楽しみ、悦びを見出していた。フランス文学にそれほど詳しくはないという歩美だが、レーモン・クノーの「地下鉄のザジ」、ジョルジュ・バタイユの「青空」といった作品や作家名を出すことで、元大学教授である儀助の心をくすぐるようなところがある。靖子が"現実"側だとすると、出会ったばかりで素性もあまり知らない歩美は"妄想"側の人物と言える。
儀助を演じる長塚京三のリアリティのある演技はもちろんだが、靖子と歩美という対照的なふたりの女性を演じる瀧内公美と河合優実にも注目して「敵」を見てもらいたい。
文=田中隆信











