江口洋介が体現する"会社員の矜持" 萩原聖人のにじむ葛藤、林遣都のまっすぐな切実さも光る山一證券破綻劇「連続ドラマW しんがり ~山一證券 最後の聖戦~」
俳優
© 2015 WOWOW INC.
一方、萩原が演じる瀧本は、物語に現場の苦さをにじませる存在だ。瀧本は、組織の中で働く人間が、上からの言葉を簡単には信じられないことも、声を上げることの難しさも知っている。だからこそ、梶井の言葉にすぐ感化されるのではなく、現場の空気を見ながら、慎重に状況を見極めようとする冷静さがある。
萩原の芝居で引き込まれるのは、感情を大きく爆発させなくても、瀧本の迷いや苛立ちが伝わってくるところだ。会社の中で何かが隠されているという不信感、真相に近づいていく怖さ、それでも目をそらせない責任感。そのどれもが、強い台詞ではなく、少し硬くなった声や短い沈黙、ふとした視線の動きに表れている。瀧本が抱えているものを説明しすぎずに見せる、その抑えた芝居に萩原らしさがある。
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そして林演じる吉岡は、本作の中で視聴者にもっとも近い立場にいる人物といえる。吉岡は、巨大企業の内側にある不正や、上層部の曖昧な態度を前に、素直に驚き、戸惑い、傷つく。会社に長くいればいるほど見えなくなってしまう違和感を、彼はまだまっすぐに感じ取ることができる。林は、吉岡の若さを単なる未熟さではなく、現実をまっすぐ受け止める力として見せている。吉岡は、会社の中で何が起きているのかをすべて理解しているわけではない。だからこそ、隠されていた問題を知った時の戸惑いや恐怖が、そのまま視聴者の感覚にも重なる。先輩たちの言葉に迷いながらも、目の前の出来事から逃げず、自分にできることを探そうとする。その表情の変化が、本作に若い社員ならではの切実さをもたらしている。
山一證券の破綻は、ニュースとして見れば大きな経済事件だ。しかし、吉岡の目を通すと、それは一人の若い社員が突然、自分の働く場所を失っていく物語にも見えてくる。林の演技は、視聴者とドラマをつなぐ入口になっている。難しい企業不祥事の話を、ひとりの人間の動揺や痛みとして受け取らせてくれるのだ。
"しんがり"とは、退却する軍の最後尾を引き受ける役目を指す言葉だ。勝利の先頭に立つのではなく、もっとも厳しい場所に残り、仲間を守る役目でもある。本作の社員たちも、会社が終わっていく中で、その最後尾を引き受けることになる。華々しい勝利が待っているわけではない。それでも、自分たちの仕事に最後まで向き合おうとする姿には、胸を打たれるものがある。
「しんがり ~山一證券 最後の聖戦~」は、過去の企業破綻を描きながら、今を生きる私たちにも問いを投げかけてくる。組織の中で働くとはどういうことなのか。会社のためではなく、人として守るべきものは何なのか。その答えを、江口、萩原、林の演技が丁寧に浮かび上がらせている。重厚な題材でありながら、最後に残るのは難しさではなく、彼らの表情に刻まれた"働く人間"の誇りだ。
文=川崎龍也


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