妙なリアリティが潜む...松坂桃李が「好青年」のイメージを脱ぎ捨てたとき

昨年、映画『新聞記者』で2度目の日本アカデミー賞を受賞。今後も『いのちの停車場』や清野菜名とW主演を務めるジブリアニメ『耳をすませば』の実写版など、出演映画作品が控えている実力派俳優・松坂桃李。

松坂は20歳だった2009年に「侍戦隊シンケンジャー」(テレビ朝日系)で俳優デビューしてから、映画『ツナグ』やNHK連続テレビ小説「梅ちゃん先生」などで、着実にキャリアを積んでいった俳優だ。過去の役柄の真面目で優しい青年と、時折バラエティで見かける本人の謙虚な姿勢のおかげで、松坂のイメージは"さわやかな好青年"という人も多いのではないだろうか。

しかし、松坂が役者生活10年目を迎え、30代が目前になった頃「役者としての経験値を上げるため、あえて自分に負荷をかけた」と自身が語る難役に次々と挑んでいく。

映画『彼女がその名を知らない鳥たち』より、松坂桃李と蒼井優

『彼女がその名を知らない鳥たち』(c)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

突破口となったのは、映画『彼女がその名を知らない鳥たち』。沼田まほかるの人気ミステリー小説を、『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』の白石和彌が監督を務め映画化した作品だ。恋愛に依存する女・十和子(蒼井優)とともに暮らす不潔で下品な男・陣治(阿部サダヲ)のいびつな愛の形を描く物語で、松坂が演じたのは十和子と不倫関係になる妻子持ちの男性・水島。百貨店の時計売り場の店員であり、清潔で紳士的な男性という第一印象。しかし、そう思うのはほんの一瞬で話が進むに連れ、中身のない薄っぺらな最低な男性像に拍車を掛けていく。妙な色気がある水島は十和子との距離の詰め方も抜群。初めて会ったその日にキスまでしてしまうのだが、その流れに違和感は一切なし。濡れ場でも癖のありすぎる言葉攻めや愛撫を披露し、見ている側の水島への嫌悪感を助長してくるからすごい。

『娼年 [R15+相当指定版]』(c)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会

そんなエロスを感じさせた松坂がさらに飛躍したのは、前作公開からわずか半年。舞台版の上演時から話題になっていた映画『娼年』だ。物語は退屈な生活を送っていた大学生・領(松坂)がスカウトをきっかけに、女性の欲望を肯定する娼夫・"リョウ"として成長する姿を描くセンセーショナルな内容。松坂はすべてを脱ぎ捨てて文字通り"体を張って"おり、動作ひとつひとつに彼の本気が感じられる。また、さまざまな欲望や悩みを抱える女性たちと触れ合うことで、リョウ自身も存在意義を見出し、過去のトラウマを開放していく様子が丁寧に描かれている。過激な性描写が取り上げられがちだが、体を通じた精神の会話を松坂が繊細に演じることにより、見終わった後にはどこか感動を覚え、人との繋がりを考えさせられるものになっている。

『孤狼の血』(c)2018「孤狼の血」製作委員会

そして、再び白石和彌監督とタッグを組んだ『孤狼の血』。暴力団対策法成立直前の昭和63年、広島の架空都市・呉原で暴力団同士の抗争とマル暴刑事たちの型破りな捜査を描く本作。役所広司扮する、やくざと癒着したベテラン刑事・大上とコンビを組む新人刑事・日岡を松坂は演じている。バイオレンスシーン満載な中で、個人的な一番の見どころは、けがれなくエリートだった日岡が大上に調教され、次第に「捜査のためなら何をしてもいい」という危ない思想に染まっていくさま。目の色を変え、相手をタコ殴りにするなど、血生臭いアクションも相まって、まさに松坂の新境地を開拓した作品と言えそうだ。この作品で日本アカデミー賞助演男優賞に輝いたことも大きくうなずける。

『孤狼の血』(c)2018「孤狼の血」製作委員会

さわやかで真面目な好青年という風貌の松坂が表現するエロスやバイオレンスには、"見てはいけないものを見てしまったような"リアリティが潜む。彼のキャリアの転換点となったこれらの作品群。松坂のバイオグラフィーの中で、決して見逃せないものとなりそうだ。

文=津金美雪

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放送情報

孤狼の血
放送日時:2020年10月3日(土)21:00~
彼女がその名を知らない鳥たち
放送日時:2020年10月3日(土)23:15~
娼年 [R15+相当指定版]
放送日時:2020年10月4日(日)1:30~
チャンネル:シネフィルWOWOW
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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