「風の吹く場所へ～love yourself～」では、そんな印象をがらりと変え、心に傷やモヤモヤを抱える等身大のヒロイン像を演じている。"風の家"や村全体の緑あふれる世界観とも相まって、紅豆の自然体で柔らかな物腰と"癒し"のオーラが心地良い。

紅豆には、周囲を圧倒する緊張感の代わりに、相手への配慮に溢れた温かい微笑みがある。"風の家"の一風変わった住人たちに笑顔で「ニーハオ」と話しかけ、村の少年のせいでスマホが壊れてしまっても感情を荒立てることもなく、終始穏やか。少年の兄である謝之遥と初めて対面する場面で、彼から差し出された手にふわりと自らの手を重ねて挨拶する仕草は、そよ風が吹き抜けるように軽やかだ。

そんな紅豆の、村での暮らしを大きく左右する謝之遥を演じているのが、「Go！Go！シンデレラは片想い」(2019年)のリー・シエン。(前述の)握手を交わすシーンでは、シエンに比べてイーフェイの手がとても小さく儚げで、"守り戦うヒロイン像"との違いを思わずにいられない。之遥と並んで歩く場面での、親しげな上目遣いの眼差しも魅力的だ。

雲苗村における出稼ぎ家庭の問題や、"風の家"の住人たちの心の傷など、共感度の高いサブエピソードが絡むたびに、紅豆の大らかさと之遥の包容力が際立ち、心温まる決着を見せる。そして、雲苗村をゆっくりと流れていく時間のように、紅豆と之遥もゆっくりと関係性を深め、大人の恋愛模様を育んでいく。

中国の大手レビューサイト・豆瓣(Douban)では8.7点という驚異的な指数を叩き出し、韓国の大手放送局が主催するアジア最大級のドラマ授賞式「ソウルドラマアワード2023」では国際部門・長編作品賞にも輝いた本作。山間の美しい景色や、村に移住した人たちとの温かな交流に心癒されながら、リウ・イーフェイが体現する"自分探しの旅"に思いを馳せたい。

文＝酒寄美智子