【タカラヅカ】花組トップコンビ・明日海りお仙名彩世出演「仮面のロマネスク」

「仮面のロマネスク」はタカラヅカでは異色の大人の恋愛物語として人気が高い作品だ。原作であるラクロの「危険な関係」は恋愛遍歴を披露し合う書簡形式の小説で、ラストは懲罰的ともいえる悲惨な結末となっている。発刊当初はスキャンダラスな問題小説とされた作品だ。

作・演出の柴田侑宏はそこにタカラヅカらしい夢とロマンを加え、互いに惹かれ合いながらも素直になれない"仮面を付けた"男と女による、スリリングな恋物語とした。さらに七月革命直前という背景を加えることで、時代の変わり目をさまざまな流儀で生き抜く人々のドラマにもなっている。

1997年、雪組の高嶺ふぶき&花總まりによって初演。これは高嶺のサヨナラ公演でもあった。その後2012年に宙組の大空祐飛&野々すみ花により再演。さらに2016年、2017年に花組全国ツアーで続けて再演された。今回放映されるのは最新の2017年版である。

~ラクロ作「危険な関係」より~ (C)宝塚歌劇団 (C)宝塚クリエイティブアーツ

物語の舞台は1830年のフランス・パリ。貴族の世界が最後の輝きを放っていた時代だ。恋多き貴公子・ヴァルモン子爵(明日海りお)と美貌の未亡人・メルトゥイユ侯爵夫人(仙名彩世)は、かつて恋人同士であり、共に社交界の華であった。メルトゥイユは元恋人のジェルクール伯爵(瀬戸かずや)に恨みを持っており、復讐(ふくしゅう)のため彼の婚約者セシル(城妃美伶)を誘惑して欲しいとヴァルモンに頼む。だが、セシルは純朴な青年ダンスニー(柚香光)と惹かれ合っていた。

一方、ヴァルモンは清楚で貞淑なトゥールベル夫人(桜咲彩花)に興味を抱く。それを知ったメルトゥイユは「トゥールベルの誘惑にも成功したら、私は再びあなたのものになる」と持ち掛ける。だが、2人が仕掛けた恋のゲームは周囲の人々を巻き込みながら残酷な悲劇をもたらしていく。

ヒロインのメルトゥイユ侯爵夫人は、その美貌と才覚で社交界をうまく立ち回っている女性であり、圧倒的な華やかさと賢さ、そして内に秘めた情熱と、多彩な表情が求められる難役である。対照的なキャラクターであるトゥールベル夫人とのヴァルモンを巡る「女の戦い」はこの作品の見どころの一つだ。

~ラクロ作「危険な関係」より~ (C)宝塚歌劇団 (C)宝塚クリエイティブアーツ

このメルトゥイユ夫人役を、本作から新たにトップ娘役に就任した仙名彩世が演じる。入団9年目、トップ娘役としては遅咲きの、満を持しての就任だ。それまでもタカラヅカ王道のヒロインというよりは、むしろ物語の中で重要な役割を果たす個性的な女性の役が多かった演技派の娘役である。

仙名は、前年の2016年版ではトゥールベル夫人を好演している。対照的なこの二役を演じられるのも仙名ならでは。これまで幅広い役所を演じてきた引き出しがこの役でも生かされ、仙名ならではのメルトゥイユ夫人像が創られている。

~ラクロ作「危険な関係」より~ (C)宝塚歌劇団 (C)宝塚クリエイティブアーツ

受けて立つトップスター・明日海りおは2016年版に続いてのヴァルモン子爵役への挑戦となり、この役で男役としての魅力の幅をさらに広げた。タカラヅカでは同じ作品を続演することが珍しいだけに、よりヴァージョンアップしたヴァルモン役を見せようとの意気込みが感じられる。仙名との新たなコンビネーションも注目されるところだ。

他の登場人物にも見どころが多い。並行して描かれるダンスニー(柚香)とセシル(城妃)、そして従者アゾラン(水美舞斗)と小間使いジュリー(華優希)の素朴な恋物語は主人公の2人による息詰まる恋の駆け引きとは対照的で、観る者をほっとさせる。

原作と大きく異なるラストシーンは七月革命勃発前夜である。ようやく"仮面を外す"ことができた2人が万感の想いを込めて踊る。美しくも哀しい名場面だ。時代に翻弄(ほんろう)されながらも誇り高く生きる男と女の、大人の恋の芳香を味わってみよう。

文=中本千晶


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放送情報

『仮面のロマネスク』('17年花組・全国)

放送日時:2018年5月6日(日)21:00~

チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE

※放送スケジュールは変更になる場合がございます。

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