松たか子長澤まさみらが原爆投下時の一家族を演じた、「ドラマ特別企画 広島・昭和20年8月6日」

原爆投下を描いた作品は、文学作品や映画、漫画、アニメなど数多いが、本作は市井に生きる平凡な三姉妹を主人公に、戦争と原爆の恐ろしさを淡々と描き出す。松、加藤、長澤の3人が、それぞれ悩みを抱えながらも、戦時下の時代において懸命に生きる姿が健気で美しい。戦争の恐怖に怯えながらも、明日への希望を捨てず懸命に生きる彼女たちと、時々記録映像と共に、原爆投下への準備を着々と進める場面が恐怖をあおる。

撮影においては、緑山スタジオのオープンスペースに忠実に再現された、原爆が投下される前の原爆ドーム(産業奨励館)や広島の町並みのセットがリアリティ抜群だ。真希が勤労奉仕先の工場で教官から差別されている朝鮮人の美花と心を通わせる場面、信子が教え子たちを不憫に思い、無断で海岸へ連れ出して軍法違反の罪で逮捕されてしまうなど、戦時下ゆえの理不尽さを描き、涙を誘う場面が多い。

何よりも、原爆が投下されることがわかっている視聴者には、姉妹たちが健気に明るく生きようとする姿がたまらない。物語の終盤は涙なしに見ることはできないだろう。

西田敏行演じる冒頭の老紳士は、クライマックスで再び現代に戻って再登場する。

「...この話の続きは、本当はしたくない。しかい、あの日のことを話さないわけにはいかないのだ...」と言って、再び場面は原爆投下の当時に戻るのだ。

ささやかな幸せをつかもうとしていた三姉妹の人生は、悲劇的な結末を迎えることになる。物語こそフィクションだが、数十万人の人々が突然人生を奪われたことは紛れもない事実だ。世界史の中で度々繰り返された戦争は、常に多くの人命を奪い、人々を不幸のどん底に陥れてきたが、原爆によって命を奪われたのは、広島と長崎の人々だけである。

世界唯一の被爆国の国民として見逃すことのできない歴史の真実を生き生きと描き出している秀作、「広島・昭和20年8月6日」は初回放送から20年近く経っているが、折しも原爆開発を主導した科学者の半生を描いた映画「オッペンハイマー」が公開されたばかり。同作には描かれていない広島の悲劇や、そんな時代の一家族を演じた、松、加藤、長澤の演技にも注目してもらいたい。

文=渡辺敏樹

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放送情報【スカパー!】

ドラマ特別企画 広島・昭和20年8月6日
放送日時:5月11日(土)21:00~
放送チャンネル:TBSチャンネル2 名作ドラマ・スポーツ・アニメ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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