人気絶頂だった薬師丸ひろ子の瑞々しい魅力が全開の映画「里見八犬伝」

⒞KADOKAWA 1983

ストーリーは、館山城主の一人娘・静姫(薬師丸ひろ子)が叔父のもとへと逃避行する場面から始まる。里見一族は黒装束の一団に襲撃を受けて皆殺しにされ、城は蟇田素藤(ひきたもとふじ・目黒祐樹)に奪われていた。素藤は、かつて里見義実によって征伐されて死んだはずだったが、彼の母・毒婦玉梓(たまずさ・夏木マリ)が悪霊に仕えて、妖怪となって蘇ったのだ。そして静姫の生き血を悪霊に捧げるべく、彼女の行方を探していた。逃げる際中で静姫は巡礼姿の二人連れに出会い、里見家と蟇田一族との因縁を知る。里見義実の息女・伏姫より「仁、義、礼、智、忠、信、孝、悌」の各字を刻んだ霊玉が八方に飛散したこと、巡礼姿の2人が犬山道節(千葉真一)、犬村大角(寺田農)であり、彼らの持つ霊玉を見せられた。やがて、霊玉を持ち「犬」の字を名字に有する犬士たちが続々と集まる。静姫は、犬士たちと共に戦うことを決意し、残る犬士たちを探す旅を続けるが、行く手には幾多の困難が待ち受けていた...。

真田が演じる親兵衛は、後に八犬士のひとりだと判明するが、当初はむしろ敵役として登場する。親兵衛は孤児で百姓に育てられたため、侍に憧れて自らの野心のために静姫をつけ狙っていたのだ。静姫を素藤に差し出して侍になろうと画策していたが、素藤の支配下となった安房国の荒廃や、傍若無人な彼らのふるまいを目にして変心し、次第に静姫にも惹かれていく...という流れになっている。

「南総里見八犬伝」をベースに同作の登場人物を配しながらも、独自のストーリーで物語は複雑かつスピーディーに展開する。八犬士たちもそれぞれ個性的で、特にリーダー格である道節を演じる千葉真一の存在感が際立っている。唯一の女犬士である犬坂毛野(志穂美悦子)も見事な演技。クールで孤独な暗殺者という難しい役どころを華麗に演じている。そんな毛野と過去に因縁があり、恨みを抱いていたが確執を乗り越えるという設定なのが、犬塚志乃(京本政樹)。京本のビジュアルの美しさと色気のある所作は本作でも存分に発揮されている。ほかにJAC所属の大葉健二(犬飼現八)も悪役から正義に転じるという起伏のある役どころで好演。敵役では、素藤を演じる目黒のほか、夏木マリ演じる玉梓の妖艶な美しさと不気味な妖怪ぶりが素晴らしい。

⒞KADOKAWA 1983

鎌田敏夫は映画「探偵物語」でも薬師丸と組んでおり、彼女の魅力を引き出すのはお手の物。監督を務めた深作欣二は、言わずと知れたアクション映画の巨匠だ。深作監督は、1981年に映画「魔界転生」で千葉真一を主役で起用し、翌年には真田広之と松坂慶子を主演に「道頓堀川」を残している。千葉は深作監督の「仁義なき戦い」でも強烈な印象を残したが、千葉や真田の持ち味を知り尽くす彼の手腕が本作でも存分に生かされたはずだ。

「里見八犬伝」は、昭和の大作映画の魅力を色濃く伝える一大エンターテインメントで、良い意味での人間臭さが感じられる。テクノロジーを駆使した現代の映画も確かに映像の迫力があって楽しめるが、やはり昭和の作品は俳優たちが生き生きとしているように見える。多彩な登場人物の群像劇であると同時に、本作でも薬師丸ひろ子の瑞々しさと芯の強さを感じる独特の魅力が全開の作品でもある。最新映画の「八犬伝」も楽しみだが、同時に昭和が生んだ大作「里見八犬伝」を改めて鑑賞すると、より深みが感じられるかもしれない。

文=渡辺敏樹

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放送情報【スカパー!】

里見八犬伝
放送日時:10月7日(月)21:00~
放送チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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