被告人の水穂は義母(倍賞美津子)から子供を作るようにプレッシャーをかけられていた。夫(眞島秀和)は仕事で帰宅時間が遅く、その上、妻の様子がおかしいことを大学時代の元恋人に相談していたなど、被告人のバックグラウンドが徐々に明らかになっていく。
一方、裁判中に娘の文香を義母(風吹ジュン)に預かってもらっていた里沙子は、「家に帰りたくない」とぐずる文香に苛立ちを募らせ、陽一郎から「虐待しているのではないか」と疑惑を持たれてしまう。心配から補充裁判員を止めるように里沙子に助言し、無意識の内に里沙子を傷つけることを言ってしまう陽一郎と、良かれと思って息子が好きなレシピを渡す義母。余裕をなくした心に周囲のさまざまな言葉が棘のように刺さり、里沙子はいつしか生気をなくした水穂と自分の姿を重ねていく。
そんな里沙子の様子を「真面目そうだから」と心配するのは、同じく裁判員で出版社で編集長を務める芳賀(伊藤歩)と、自身も幼い息子を育てている裁判官の朝子(桜井ユキ)。やがて、いつも自分の気持ちを抑え込んで生きてきた里沙子のバックグラウンドも浮き彫りにされていく...。
■里沙子を中心に乱れていく裁判関係者の人間模様がリアル
法廷に何度も立ち会うことで心を乱されるのは里沙子だけではない。そんなところも本作が"心理サスペンス"と評される所以かもしれない。裁判員の芳賀、裁判官の朝子もそれぞれの家庭に問題を抱え、自身の夫と言い争いに。そして、不安定になり疑心暗鬼になっていく里沙子の家には突然、児童福祉士が訪ねてくる事態に...。
ミステリー色がどんどん強くなっていく展開の中、里沙子の実の母親(高畑淳子)との確執も絡んでいき、昭和の時代とは違う家族のあり方、世代間のギャップ、曖昧な"普通"という物差しが視聴者にも疑問を突きつける。
柴崎には颯爽としたイメージがあるが、本作では、闇の中を彷徨い続ける主人公を視線や心もとない歩き方も含めた細部まで行き届く演技でみごとに表現。柴咲の女優魂に触れられる手応えのある作品だ。
文=山本弘子
放送情報【スカパー!】
坂の途中の家
放送日時:2024年10月19日(土)15:00~
チャンネル:WOWOWプラス
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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