中山美穂が正反対の二役を演じる映画「Love Letter」は、30年経っても色あせない作品

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そんななか、俊英として映像界で注目を集めていた岩井監督の長編映画デビュー作の主演に抜擢された。岩井監督はイベントで、中山にオファーをした際に「映画はあまり好きじゃないんです」と言われたと明かしていたが、劇中では中山は博子と樹という正反対のキャラクターとして、岩井監督ならではの映像美のなか"夢かうつつか"という揺らぎを映画的な表現を持って演じ切った。

前述したように、出演ドラマもヒット作が多く、主題歌を担当することが多かった中山だけに、その肩書はアイドルであり歌手であり女優と、ある意味でマルチなイメージが強かったが、本作で"女優・中山美穂"がよりクローズアップされたことは間違いないだろう。それだけ岩井監督がイメージした博子と樹という女性を繊細に演じ分けていた。

■中山美穂&豊川悦司の組み合わせの妙

そんな中山の瑞々しさは本作の大きな特徴となっているが、博子の友人である秋葉茂を演じた豊川悦司も、作品に彩りを添えている。何よりも映像として強い個性を発揮する岩井監督が作り上げる世界観のなか、豊川はいい意味で"佇んでいるだけ"で秋葉というキャラクターを成立させている。豊川の持つ"やらず"の美学を体現できる唯一無二の存在感は、年齢を重ねるごとに増しているが、中山と豊川の組み合わせの妙も、本作が何年たっても色あせずに新鮮さを保っている大きな理由だろう。

また、中山と豊川だけではなく、樹の少女時代を演じた酒井美紀、そして博子の婚約者である藤井樹の少年時代を演じた柏原崇の初々しい芝居も、岩井監督の幻想的な映像にマッチしていた。酒井は本作が女優デビュー作。中山に憧れて芸能界を目指した少女が、憧れの人物の少女時代を演じるというドラマチックな展開、さらには酒井と柏原は、「Love Letter」公開の翌年に、こちらも名作と名高いドラマ「白線流し」シリーズで作品を共にしているというのも、運命的なものを感じる。

中山と豊川は、「Love Letter」に対するアンサー映画となっている、2020年に公開された岩井監督の「ラストレター」でも、近しい関係性で出演し、「Love Letter」ファンの間でも話題になった。名作は時代を超えて語り継がれていくが、30年経った今観ても、まったく色あせることがない「Love Letter」。さらに大きく時代が変わるであろう50年後、100年後でも、この鮮度は変わることがない......と思わせてくれる傑作だ。

文=磯部正和

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放送情報【スカパー!】

Love Letter 4Kリマスター
放送日時:2025年7月6日(日)18:45~ほか
放送チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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