本作について吉岡は「役を演じるというより、作品作りにおいてその人間を体現させてもらっている感覚がある」とコメントしているが、まさしくその言葉通りに、平良正太郎という一人の人間をごく自然に多面的に存在させている。温かみと悲しみを合わせ持つような印象的な眼差しと声が、平良というキャラクターに深みを持たせていた。吉岡でしか成立し得ない役どころと言えるだろう。

また、事件の容疑者で逃亡犯の阿久津弦役をRADWIMPSの野田洋次郎が演じる。グループのメジャーデビュー20周年イヤーとなる今年、10月8日(水)にはニューアルバムのリリースを、10月18日(土)からは9都市17公演を巡るアリーナツアー「RADWIMPS 20th ANNIVERSARY LIVE TOUR」が控えているが、長きに渡る音楽活動で野田が培ってきた類まれな表現力が、この難役を演じるうえでも存分に生かされている。

野田のほかにも、平良とバディを組む若き巡査・大矢啓吾役を高杉真宙、阿久津をかくまう長尾豊子役を瀧内公美が演じ、共演の演技派たちが吉岡と新しい化学変化を起こす。

殺人事件の裏に隠された真実が胸に迫る、慟哭の本格社会派ミステリー。最後にたどり着く"たった一つの真実"に何を思うか。かつて現実にあった社会問題に果敢に切り込んだ衝撃作を楽しみに待ちたい。

文＝中川菜都美