上川隆也佐々木希が放つ"静かで張り詰めた芝居"――バブル崩壊後の喪失を描いた宮部みゆき原作『火車』

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「宮部みゆき原作 ドラマスペシャル『火車』」
「宮部みゆき原作 ドラマスペシャル『火車』」

©東映

上川が演じる本間は、傘を杖代わりに足を引きずりながら歩き、息子・智との会話にも心ここにあらずといった様子を見せる、生気の乏しい男として物語は幕を開ける。刑事を辞めるべきかどうかさえ、自分でもよくわからないまま日々をやり過ごしていた本間だったが、彰子の足取りを追ううちに、刑事としての勘が少しずつ研ぎ澄まされ、溝口の証言に潜む矛盾を見逃さない鋭さを取り戻していく。本間という男が事件をきっかけに再び生きる理由を見つけていく過程を、上川は見事に演じていた。

一方、佐々木が演じる喬子は、物語の終盤までほとんど言葉を発しない異例の役どころだ。モデル出身の佐々木は、映画「天使の恋」で初主演を務め、ドラマ「土俵ガール!」などでも、若い女性の強さや危うさを華やかな存在感とともに見せてきた。本作では、本格ミステリー初挑戦。それまでの印象を封じるように、セリフに頼らず、伏し目がちな表情や後ろ姿、わずかな視線の揺れだけで、誰にも心を開かずに生きてきた喬子の孤独をにじませていく。姿を現すほど謎は深まり、多くを語らないからこそ、別人になってまで生き延びようとした痛みと執念が浮かび上がる。佐々木の持つ美しさを、華やかさではなく近づきがたい影へと反転させた配役も、本作の大きな見どころだ。

「火車」という不穏なタイトルが示す通り、この物語がたどり着くのは、温かな救いとはほど遠い結末だ。それでも、妻を失った男が再び歩き始める姿と、名前を捨ててまで新たな人生を求めた女の執念が交錯する終盤には、ミステリーの謎解きだけでは語りきれない深い余韻が残る。宮部みゆきが30年以上前に描いた、バブル経済とカード社会が生み出したひずみは、今の社会にもつながっている。7月11日にスタートした連続ドラマ「告白-25年目の秘密-」に出演している佐々木と、6月に放送された「世にも奇妙な物語 '26夏の特別編」でベテラン刑事を演じた上川。第一線で活躍を続ける2人が、15年前に見せた静かで張り詰めた芝居を、この機会にあらためて味わってほしい。

文=川崎龍也

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