SNSでバズってまさかの実写化!二階堂ふみGACKTのW主演で地域格差や郷土愛を描く『翔んで埼玉』

「埼玉県人には、そこらへんの草でも食わせておけ!」などのキラーフレーズが次々に炸裂
「埼玉県人には、そこらへんの草でも食わせておけ!」などのキラーフレーズが次々に炸裂

■知る人ぞ知る、憂さ晴らしのための未完作品

「すっごい田舎」「なんにもない」などと自ら悪口を言っていても、他の人に言われるとちょっとムッとしてしまう。そんな複雑で不思議な感情、「地元愛」を思い出させてくれる前代未聞のエンターテインメントムービー『翔んで埼玉』(2019年)。原作は、「パタリロ!」で一世を風靡した魔夜峰央による、「花とゆめ」で1982年冬の別冊と1983年春・夏の別冊の3回にわたって連載された未完のギャグ漫画である。

1982年といえば、「パタリロ!」がアニメ化された年。当時、仕事も忙しくなり、故郷の新潟から上京した魔夜だったが、「パタリロ!」を連載していた「花とゆめ」の編集長に勧められた転居先は東京ではなく、埼玉県所沢市。しかも、近所にはその編集長と編集部長も住んでいたという。常に締め切りに追われる若かりし頃の魔夜が、息苦しさを感じたことは想像に難くない。「ここから逃げ出したい!」という精神的プレッシャーを発散するべく生まれたのが、埼玉県を徹底的にディスったハチャメチャな快作「翔んで埼玉」だった。

二階堂ふみによる百美が凄まじくハマり役であった
二階堂ふみによる百美が凄まじくハマり役であった

(C)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

舞台は、出身地や居住地による、理不尽な差別がまかり通っている日本。ある日、都内でも名門と評判の高い白鵬堂学院に、丸の内の大手証券会社社長の御曹司であり、アメリカへ留学していた容姿端麗な男子学生・麻実麗が転校してくる。東京都知事の息子で、学院の生徒会長を務める壇ノ浦百美(※原作での名字は白鵬堂で、理事長の孫という設定)は、当初、麗のことをライバル視していたものの、やがて紳士的で優しい彼に惹かれ、恋心を抱くようになっていく。しかし、実は麗の本当の出身地は埼玉県所沢市。埼玉県人の置かれた窮状を知った麗は、埼玉県人を解放するために立ち上がる――!

こんなインパクト大の物語を始めておきながら、魔夜は、第3話まで執筆した後、横浜に転居。もともと埼玉出身でもなければ、居住者でもなくなった彼は、本作を続けるモチベーションを失い、「いよいよ、これから!」というところで連載をあっさり中断してしまう。ちなみに気分でブツッと連載を止めてしまうのは、魔夜にとって、珍しいことではない。よって、後に短編集「やおい君の日常的でない生活」(1986年刊行)に収録された本作は、あくまでも知る人ぞ知るマニアックな作品にすぎなかった。

時は流れて、2015年。Twitter上で、なにげなくファンが作品の一部をアップしたところ、映画の中でもバッチリ使われた「ああいやだ!埼玉なんて言ってるだけで、口が埼玉になるわ!」や「埼玉県民には、そこらへんの草でも食わせておけ!」といった衝撃的な迷セリフが注目を集め、大きな話題となる。同年、すかさず宝島社から復刊された「このマンガがすごい! comics翔んで埼玉」が大ベストセラーに。そして2019年に、二階堂ふみとGACKTのダブル主演×「のだめカンタービレ」シリーズの武内英樹監督による実写映画が公開され、興行収入37億円を超える大ヒットを記録した。雑誌掲載から35年以上も経っているうえに、たった3話しか描いていなかった作品が、奇跡の大出世。映画の冒頭シーンには、大勢のバレリーナが舞い踊るキラキラした世界の中、原作者の魔夜本人がにこやかに登場するのだが、内心、彼が一番驚いているに違いない。

手をOKマークにして両手をクロスさせる「埼玉ポーズ」を取る麗
手をOKマークにして両手をクロスさせる「埼玉ポーズ」を取る麗

(C)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

■37年前の作品を現代の形に昇華

原作コミックの時代が昭和だったこともあり、映画版では、原作部分を「埼玉にまつわる都市伝説」として描いているのが大きなポイント。埼玉のFMラジオ放送局「FM NACK5」の番組で、その伝説の物語を聴く埼玉在住のある一家を登場させることで、過去と現代が交錯する映画らしい構成に仕立てたところが秀逸だ。もちろん、ストーリー自体も、原作は序盤で終わっているため、設定以外のほとんどの部分は映画オリジナルとなる。

現代パートで繰り広げられるドラマにも注目
現代パートで繰り広げられるドラマにも注目

(C)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

他県人が東京に出入りするために必要な通行手形の制度撤廃を求める「埼玉解放戦線」メンバーと、埼玉より先に通行手形制度の撤廃を狙う「千葉解放戦線」メンバーとの対立。そして、江戸川を挟んでの埼玉VS千葉のスペクタクルな戦いから、やがて両者が手を組んで、東京都内に攻め込んでいくという展開がアツい。そのほか、東京各地の空気の匂いでエリアを当てさせる「東京テイスティング」や、埼玉県人を捕獲するための装置「さいたまホイホイ」、埼玉軍と千葉軍による「芸能人出身地対決」など、数多くのオリジナル要素が追加されている。

原作の設定から、よくぞこれだけの壮大な(?)ストーリーとギャグのアイデアを生み出したものだ、としみじみ感心。脚本は、本作で映画デビューを果たした「かぐや様は告らせたい」シリーズの徳永友一。映画版で新たに千葉という手強いライバルを登場させた理由は、監督の武内が千葉県出身だったからだという。

二階堂は本作で初の男性役に挑戦。かわいらしくもたくましく百美を演じた
二階堂は本作で初の男性役に挑戦。かわいらしくもたくましく百美を演じた

(C)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

ストーリーがほぼ映画オリジナルであるぶん、主人公の麗と百美のビジュアルには強くこだわって、髪型やメイク、衣装に至るまで、とことん原作コミックに寄せている点もいい。麗役のGACKTは、映画公開当時45歳にして高校生役を演じることに抵抗があったというが、原作のイメージ通りの妖艶で落ち着いている美しい麗様を見事に体現! 一方、百美役は当初、原作の男性設定を変更して、女性にする予定だったが、キャスティングされた二階堂ふみ本人が、自分がそのまま男性の役を演じることを提案したとのこと。そもそも原作の百美は、外見も心も女の子のような可愛い男の子。男優が演じるのは無理があっただろうし、かといって設定を安易に女子にすると、あの妖しい雰囲気が魅力の魔夜ワールドとはかけ離れてしまう。まるで原作から抜け出したような百美の姿を見るにつけ、やっぱり二階堂はわかっているなぁと思わずにはいられない。

同じく魔夜峰央原作の『劇場版パタリロ!』で主演を務めた加藤諒も出演
同じく魔夜峰央原作の『劇場版パタリロ!』で主演を務めた加藤諒も出演

(C)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

また、都知事の執事にして、裏の顔は千葉解放戦線のリーダー・阿久津役に伊勢谷友介。伝説の埼玉県人・埼玉デューク役に京本政樹。現代パートに登場する一家の父親役にブラザートム、母親役に麻生久美子、娘の愛海役に島崎遥香、愛海の婚約者役に成田凌など、バラエティ豊かなキャストが出演。さらに、X JAPANのYOSHIKI、THE ALFEEの高見沢俊彦、桐谷美玲、真木よう子、竹野内豊、反町隆史といった芸能人たちが、出身地付きで写真出演する爆笑シーンも要チェックだ。

本作は第43回日本アカデミー賞にて、最優秀監督賞や最優秀脚本賞を含む最多12部門で受賞したほか、イタリアやドイツ、アメリカなど海外の映画祭でも数々の賞を受賞。地域格差や郷土愛は、誰もが共感できる万国共通のテーマであることを証明した。映画続編の話も進行しており、まだまだ目が離せない。

文=石塚圭子

石塚圭子●映画ライター。学生時代からライターの仕事を始め、さまざまな世代の女性誌を中心に執筆。現在は「MOVIE WALKER PRESS」、「シネマトゥデイ」、「FRaU」など、WEBや雑誌でコラム、インタビュー記事を担当。劇場パンフレットの執筆や、新作映画のオフィシャルライターなども務める。映画、本、マンガは日々を元気に生きるためのエネルギー源。

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放送情報

翔んで埼玉
放送日時:2022年3月6日(日)18:50~、13日(日)18:50~
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があり

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