花澤香菜が語る、声優という仕事との向き合い方 コンプレックスを超えて見つけた自分らしい表現【花澤香菜をつくる6つのピース】
声優

――それだけ新海監督作品への思い入れが強かったんですね。そうして掴んだ雪野百香里役ではどんなことを意識して演じられたのでしょうか?
「実際にある公園が舞台になっている作品だったので、そこに何度も足を運んだりもしましたし、アフレコのやり方もいろいろ工夫しました。20代前半の頃って、同じような役柄をいただくことが多かったんです。妹キャラとか、ヒロインとか、かわいい子とか。そういうイメージが自分についていたからこそ、キャラクターごとにどう違いを出していけばいいのか分からなくなってしまった時期があって......」
――"花澤香菜さんのイメージ"が定着していたからこその難しさでもあった
「そうなんです。その時に信頼している音響監督さんに相談したら、『例えば今日、靴下を左右違うものにしたら、それだけで昨日とは違うよね』と言われたんです。そういう小さな積み重ねで違う人間が生まれていくんだよ、と。その言葉で、私は外側の記号ばかり見ていたのかもしれない、とすごく反省しました。しかも、自分の中で作るものだけじゃなくて、周りの役者さんも毎回違うわけだから、相手の芝居をちゃんと聞いて反応していけば、同じように見えるポジションの役でも全然違う人物になっていく。そのことを教わった時期でもありました。『言の葉の庭』で雪野先生を演じる時は、ある出来事をきっかけに日常がうまくいかなくなっている人物だったので、その気持ち悪さみたいなものを自分の中に残しておきたくて、左右の靴を逆に履いて現場に行ったりもしていました。自分なりのやりやすさや工夫を考えて、実践し始めたのがあの頃だったので、あの作品をきっかけに少し変わった感覚はありますね」
――10代から20代前半にかけての経験が、今の花澤さんのベースになっているんですね
「すごくなっています。でも、28、29歳ぐらいで1回、波が止まった感覚もあったんです。オーディションが全然分からない、みたいな時期があって。今までやってきたような役はあるけど、自分で幅を広げられていないなという感覚もありました。でも、この仕事って選んでもらえないと続けられないので、そこでふてくされていても仕方がないなと思って、中国語の勉強を始めたりしていました。その時期にやっていたことって、今振り返るとすごく身になっているんです。たとえば『おでかけ子ザメ』での表現も、たぶん中国語を勉強していなかったらできていなかっただろうな、と思うことがあって。自分が普段使っている言語ではないものでしゃべることとか、子音の多い言語の発声に慣れていくことが、作品の表現につながっている感覚があるんです。うまく言葉にするのは難しいんですけど、あの時期にやっていたことが、ちゃんと今につながっている。だから、無駄な時間はなかったなと思います」

――長く仕事を続ける中で、日々欠かさずやっていることや、大事にしている心構えはありますか?
「自分の中のルールはあります。すごく基本的なことですけど、体調管理ですね。あとは滑舌のために、7時間は絶対に寝るようにしています。どれだけチェックが終わっていなくても、7時間は寝ると決めています。それから、体調管理のために運動したり、時間を絶対に守ることだったり、社会人としての礼儀もそうですし、あとは探求心も大事にしています。映画でも舞台でも、周りにいる面白い人でも、何でもいいので、そういうものに触れておくこと。大学時代は、そこにいるだけでいろんな情報が入ってきたり、授業を受けられたりして、自然と刺激を受けられていたんですけど、声優の仕事だけをしていると、自分から取りに行かないと新しいものに触れにくくなってしまうんですよね。だから、それは意識して生きています。あとは、やっぱり一番は、監督がやりたいものを精いっぱい形にすること。柔軟性はすごく大事だと思っています」
――花澤さんのお話を聞いていると、その柔軟さも表現を続けてこられた理由のひとつなのだと感じます
「性格もあると思うんですけど、私は『絶対にこうしたい』という強いこだわりが、そこまであるタイプではないんです。むしろ、自分でも思っていなかった方向に進んだほうが面白いと思うことのほうが多くて。『こばと。』の時に、監督から『なぜ私を選んでくださったんですか』と聞いたことがあるんですけど、その時に『オーディションで、このセリフを想定とは違う方向に表現していたのが面白かった』と言っていただいたんです。監督が思い描いているものに応えながら、そこに自分でも予想していなかったような面白さを加えられたら一番いい。そういう表現は、自分の強みにしていきたいなと思っています」
取材・文=川崎龍也 撮影=MISUMI











