仲野太賀吉田羊が描く親子の愛憎劇に胸を打たれる...実話をもとにした映画「母さんがどんなに僕を嫌いでも」

「母さんがどんなに僕を嫌いでも」に出演する吉田羊と仲野太賀
「母さんがどんなに僕を嫌いでも」に出演する吉田羊と仲野太賀

ドラマ「ジャパニーズスタイル」に出演中、今や実力派俳優として引く手数多の仲野太賀と、来年1月に公開予定の映画「イチケイのカラス」に出演する吉田羊。この2人が親子役を演じた映画が「母さんがどんなに僕を嫌いでも」だ。原作は歌川たいじによる同タイトルのコミックエッセイで、著者の実体験を基に書かれた内容。

衝撃的かつ、人間の温度感がスクリーンを通して伝わってくる本作で、太賀(当時の仲野の芸名)が演じているのは、幼少期から母親に虐待を受けていたタイジ。若い時から精神的に不安定だった母・光子を吉田羊が演じている。緊張感のある内容ゆえに撮影中はほとんど会話を交わすことはなかったという吉田と太賀だが、本当の親子のように見えるのは、2人がそれだけ役に入り込んでいた証だろう。

物語は、社会人になったタイジがその孤独に気付いてくれる仲間と出会い、少年期を振り返り、現在と過去がクロスする形で進行していく。肥満児だったことで母親に「豚」呼ばわりされていた幼少期と、大人になってからのタイジが違和感なく繋がり、観る者に多くのことを想像させる。これは、存在自体を親に否定された子供が生きることを諦めずに大人になり、母と必死で向き合おうとする、切なくて強くて優しい物語だ。

■泣きたい時にも笑うタイジを支えたのは周りの人であり、そしてタイジ自身でもある

本作は、大人になったタイジが1人で混ぜごはんを作っているシーンから始まる。混ぜごはんは母親が得意で、タイジも子供の頃から大好きだったメニュー。工場を営んでいた父と母のもとに生まれたタイジには姉がいたが、母がヒステリーを起こす相手は、夫と、太っていて温厚な性格のタイジだった。「グズグズしている」と言って母親からシチューをかけられ、一時的に施設に預けられたこともあるタイジ。そんなタイジが虐められていることに気付いて、いつも優しく声をかけてくれたのは、工場で働いていた女性(木野花)で、タイジは「ばあちゃん」と呼び、懐いていた。程なくして両親は離婚するが、「嘘笑い」をする少年・タイジを心配するばあちゃんはタイジにとってもかけがえのない存在だった。

家を飛び出し、1人で生きてきたタイジは、やがて、ある劇団に心惹かれる。劇団のリーダー格であるキミツ(森崎ウィン)に「君の歌声に負のエネルギーを感じる」と何かとお節介を焼かれるようになったタイジ。同時に会社の同僚・カナ(秋月三佳)とその彼氏(白石隼也)もタイジを気にかけ、心中を察する優しさでアドバイスを送る。この4人がいたからこそ、タイジは1歩踏み出すことができた。そして、辛い人生を投げ出さなかったのは、人の温かさを素直に受け取る強さを持ったタイジ自身。太賀の人間味溢れる演技に心を掴まれる。

(c)2018 「母さんがどんなに僕を嫌いでも」製作委員会

■美しくも、感情をコントロールできない母親を吉田が熱演

プライドが高く、人から意見をされるのが嫌いな光子(吉田)は、女好きの夫に愛想を尽かして子供2人を連れて家を出ることに。離婚後も恋人を作るが、自分の人生を肯定できない光子は、子供たちには愛情を注ぐことができない。

17歳になったタイジは家事を切り盛りしていたが、あることがきっかけで親としてのプライドを傷つけられた光子に激怒され、これでもかという程に罵声を浴びせられる。自身のストレスをタイジに転嫁させるように泣き叫び、息子に向かっていくシーンでは、吉田の鬼気迫る演技が実にリアル。恐怖の只中にありながら、「母さんに後悔させるまで僕は死なない!」と叫び、タイジは家を出る。

子供の頃から冷たくされても、「嫌いだ」と言われても大好きだった母親。6年の月日を経て、タイジと光子は再会する。憎しみを超えて本当の気持ちにやっと向き合えたタイジは、変わらない母を諦めない。

悲しみをコミカルに昇華できる道化師的な魅力を持つ太賀と、薄情な親を演じても凛とした美しさは消えない吉田。2人が演じる親子の愛憎劇に、心を揺さぶられずにはいられない。

文=山本弘子

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放送情報

母さんがどんなに僕を嫌いでも
放送日時:2022年12月4日(日)11:40~
チャンネル:WOWOWプライム
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

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