前半の大部分が、ギワンの過酷な生活の描写に割かれている。空き瓶を集めてわずかな金に換え、公衆トイレで寝泊まりする。素性を偽ってやっと仕事に就いたものの職場では新人いじめに遭い、素性を偽ったことが原因で強制送還一歩手前まで追いつめられる。
救いのない日々を送るギワンの顔には、感情というものがない。傷つかないように、絶望しないように、感情に蓋をして、ただ日々を生きていく。そうしないと心が折れてしまう、とでもいうようだ。その姿は回想シーンで最愛の母に笑顔を見せるギワンとは別人のようで、ギワンがいかに大切なものを失ってベルギーへとやってきたのかが窺える。
そんなギワンの"空っぽの心"が、人生に投げやりな女性マリと交流するうち、孤独や怒り、痛みといったヒリヒリした感情に目覚める。そして、自分自身を傷つけようとするマリを止めるため危険に飛び込んでいく。
「マリ、俺が絶対に救ってみせる。炎の中に飛び込んでも」「もっと強くなって君を支える。必ず強くなって、君を見つけ出す」。何というひたむきな愛情だろうか。"生きること"は愛だけでは語れないかもしれないが、"愛すること"はその人の生き様そのものだ。Netflixドラマ「アンナラスマナラ-魔法の旋律-」のヒロイン、ユン・アイ役で注目されたチェ・ソンウン演じるマリの絶望も実に痛々しく、それだけに、ギワンが愛を知って"生きる意味"を取り戻していく様が生々しいリアルさで迫ってくる。
<配信情報>【Netflix】
Netflix映画「ロ・ギワン」独占配信中
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