金城が演じるガーフは、若きピアノ調律師。横で痴話喧嘩をしていようが構わず淡々と仕事に向き合う、真面目な青年だ。仕事先でモッヤンに出会い、賭け事に付き合わされた末に家に転がり込まれるなど、強引な彼に振り回される。それでも穏やかな性格ゆえ、怒ることもなく受け入れてしまい、奇妙な共同生活が始まる。

そんな2人の上階に越してきた、内気で大人しいマンイーの心が、少しずつ動きはじめる。彼女の奏でるピアノに合わせて髭剃りや歯磨きをしたり、ガーフとは対照的に怒り狂うモッヤンの嫌がらせの尻拭いをしたり...。淡い思いから変化していく心情、アプローチする勇気がないままの自分を置いて次第に距離が縮まっていく2人に抱く複雑な思いも、金城が視線や表情で細やかに表現する。

端正な顔立ちを冴えない髪型とメガネで隠し、主人公になれない青年を自然体で好演。報われない姿に、つい応援したくなるような愛らしさも魅力的だ。そんな切ない現実とは打って変わって、空想の世界でのコミカルな演技もまた楽しめる。

バッハが妻に捧げたというエピソードがある表題曲を効果的に入れながら、ロマンティックな演出で3人の恋模様を瑞々しく描いた「アンナ・マデリーナ」。金城は当時からその実力を高く評価されていたが、もどかしい感情や恋の切なさをも体現した彼の演技力に引き込まれた。

文＝中川菜都美